ARTICLES

「なにかは、なにかからできている」橋爪悠也が探求する、模倣とオリジナリティの先にある関係性

2026.04.17
INTERVIEW

どこかで目にしたことのあるような、親しみやすいフォルム。橋爪悠也の作品は、藤子・F・不二雄作品を彷彿とさせるタッチで描かれ、見る者の記憶に語りかける。その実践は「あらゆる表現は模倣や踏襲の上に成り立つのではないか」という根源的な問いから生まれている。幼少期から現在に至るまでの道のり、そして新たな試みなど、その創作の核心に迫る。

模倣から生まれるオリジナリティ:創作の原点を探る

作家のアトリエ

作家のアトリエ

ーアーティストとしての出発点について教えてください。子どもの頃に影響を受けた本や絵、出来事はありますか?

橋爪:幼少期に絵を描くことが好きだったという、よくある理由から今に至っているように思います。

幼少から小学校と絵を描くことが好きで、学校の生物観察のスケッチを先生に、ドラえもんを模写して同級生に褒められる。中学時代になると絵のことは忘れ、バスケットボールに真剣に打ち込む。高校で自分より絵が上手い人が大勢いて、将来の夢から絵描きの選択肢がなくなる。服飾の専門学校に進み、そのまま成人になって洋服販売の会社に入る。絵が描けるということで、社内のデザインやイラストを担当する。もう1回、絵や何かを作ることで生活できるかもしれないと考えるーー今に至る。

……という感じです。幼少期は本や絵を見ることはほとんどなかったので、影響を受けたことといえばテレビで流れているアニメやお笑い番組だったと思います。特別印象に残っている出来事もなく、ごくごく普通の子供でした。

ー作品のモチーフに藤子・F・不二雄さんの作風を取り入れていますが、なぜ藤子作品が特に響いたのでしょうか?

橋爪:ドラえもんのフォルムが好きというのが一番の理由です。それも漫画ではなく大山のぶ代時代のアニメのドラえもん。漫画やアニメの内容に詳しくないけど刷り込まれているあのフォルムです。

自分が何か「オリジナル」と呼ばれるものを作ろうとすると、既存のものを見たり経験したりしたものを自分のフィルターを通して発信、発表していくことになると思っています。「それってみんなもわかりますよね?」ということをみんなと話したくて、わかりやすいもので表現したかった。当時、その近くにあったものが藤子F先生の作風でした。

作家のアトリエ

作家のアトリエ

ー「あらゆる表現は模倣や踏襲の上に成り立つのではないか」という問いについて、いつごろから意識し始めたのか、その経緯を教えてください。

橋爪:前職は洋服の販売でしたが、この業界では、たとえば「袖」というものは自分が働いていた会社が考えたものではなく、誰かが考えた「袖」を今もみんなが作っています。

よくあることなんですが、自分が勤めていた会社のブランドが「オリジナル」と謳っているカバンを作って売れても、次の年に、他ブランドから全くと言っていいほど同じ形のリュックが出て、自社のカバンより有名になっている。そうなると、認知度は後者の方が高い、なんてことはざらにあります。そこにモヤモヤを抱えながら生きていました。「なにかは、なにかからできている」とずっと思っていたんです。

「軽さ」と「思考」をめぐる制作プロセス

製作中の様子

製作中の様子

ー作品はどのようなプロセスで生まれますか?

橋爪:着想に結構な時間がかかります。何かを作るために考え事を四六時中していると言ってもいいかもしれません。そのため、絵を描いている時間は他の方より少ないかもしれませんね。

今は私が「キャンバスに絵の具で絵を描く人」という認識の方が大部分を占めていますが、最初の頃は何かを発信、伝えるために色々な方法をとっていました。作品制作としては、考えがまとまったらパソコンで9割ほど製図して色もおおかた決め、キャンバスに写して色を塗るといった工程です。

製作中の様子

製作中の様子

ー技法やこだわりの道具・工程があれば教えてください。

橋爪:私は美術の学校を出ているわけでもなく、誰かに教えてもらったわけでもないので、技術については詳しくわかりません。塗り方がわからなければYouTubeを見ますし、SNSで発見した綺麗にコーキング施工している建築系のショート動画や、庭を綺麗に刈る動画から転用することもあります。道具は知り合いが勧めてくれたものを使ってみて、使いやすかったら使います。100均の道具もたくさん使ってますね。おそらく工程もめちゃくちゃだと思います。

気をつけている点は、「誰でもできる方法で感動させられたらな」ということと、「たくさん作れば上手にはなっていくと信じたい」ということです。展示でお客さんから「どうやったらこんな風に描けますか?」と聞かれますが、「数をこなせば、みんな上手になりますよ」と伝えています。というか、そうなると信じたいと自分で思っています。思考の部分はまた違うと思いますが、あくまで技術の部分の話としてです。色などは技術とは別で「思考」や「経験」だと思っています。

アトリエにて

アトリエにて

ー今回の新作で使用している「ナオロン」という紙について、特徴と選んだ理由を教えてください。素材が表現に与える影響は?

橋爪:これまで、キャンバスを業者から買って作品を作ってきました。誰かが作ったキャンバスを。

今回は単純に道の駅などでよくある「このキャベツの生産者はこの方です!」みたいなことがやりたいなぁ、と思ったのと、「厚みのあるキャンバスでどうだ!」「これが芸術作品だ!」みたいなことにちょっと疲れたというか、もう少し「軽い」作品を作りたいと考えました。そこで自分の人生の中で出合った素材を思い返して、過去に触ったことのある素材がこのナオロンでした。生産者も分かりますし、日本の紙で、縫える、かつシワが出来ても良いテクスチャが出る素材だったので使ってみたいと思いました。今回は実験的というほどではないにしろ、新しい試みなので、こういう作品がもっと気楽に飾れて、日本の住宅にもハマるものになればいいなと思って制作しています。だからどうなるかわかりませんね。

「関係性」から変化する制作への視点

製作中の様子

製作中の様子

ー今回の展示テーマを「Relationship(関係性)」にした理由を教えてください。

橋爪:この「関係性」というのはすごく大きな意味で考えています。私の根底にもある「なにかは、なにかからできている」というのも「関係性」からきていますし、どれだけ一人が好きな人でも、すべての関係を断つこともできません。

私が尊敬する作家が「オーディエンスを意識していない時期があった」とインタビューで言っていたのでかっこいいと思ってそれにならったこともあったのですが、やっぱり発表するからにはいるんですよ、オーディエンスが。なので「関係性」って必須だなと思ってこのテーマにしようと思いました。

作家のアトリエ

作家のアトリエ

ー展覧会のアプローチがこれまでとかなり異なるように見えますが、その変化のきっかけは何でしたか?

橋爪:自分では特にアプローチが変わったとは思っていないんですよね。突拍子のないものは作れないので。ただ、作る量やスピードが変わったので、素材をもう一回考えました。また、今まで海外で発表したものを、今回は日本の方にも見てもらいたいと思いました。せっかく日本で展示しますからね。

昔は「アーティストは特別だ」と恥ずかしげもなく思っていたのですが、自分の年齢や、みんなが発信する時代感と相まって「全員アーティストっちゃあアーティスト」みたいな感覚になってきました。こういう考えになったことで、作るものがもしかしたら変わってきたかもしれません。一応アーティストとして、私にもささやかながらプライドがある中で言っていますけどね。

製作中の様子

製作中の様子

少し冗談めかして笑う橋爪だが、その根底には一貫した哲学があり、実践へと生かされている。洋服業界での経験から得たオリジナリティへの問いは、彼の作品の根幹をなし、見る者に「オリジナルとは何か」を静かに問いかける。そして、その問いは「関係性」というより大きなテーマへと繋がり、オーディエンスを含めたあらゆる存在との関わりの中で新たな表現は生まれていく。

橋爪悠也の個展「Relationship」はホワイトストーンギャラリー軽井沢にて2026年4月25日より開催。また、同施設である軽井沢ニューアートミュージアムで開催中の「つながる・ひろがる」展においても、橋爪の作品を閲覧することができる。

橋爪悠也: Relationship

つながる・ひろがる展

メールマガジンで最新情報を受け取る

最新のエキシビション情報や会員限定企画をお届けします。


メールアドレス登録後、確認メールをお送りします。メール内のリンクをクリックして登録を完了してください。

RELATED ARTICLES

ARTICLES CATEGORY

  • ART NEWS

  • FEATURE

  • INTERVIEW

  • REPORT

  • ARCHIVE

メールマガジンで最新情報を受け取る

最新のエキシビション情報や会員限定企画をお届けします。


メールアドレス登録後、確認メールをお送りします。メール内のリンクをクリックして登録を完了してください。