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川島優 × 土方明司|線の絵画がもたらす少女の鋭利な憂い

2024.02.22
INTERVIEW

土方明司 × 川島優

川崎市岡本太郎美術館の土方明司館長がアーティストとの対話を通して作品に迫るシリーズ。第4弾は伝統的な日本画と現代アートという対比的な領域をシームレスに行き来する “川島優”との対談を実施した。

前半では日本画を専攻することになった経緯と、墨を主体にした制作の理由を語った川島。後半となる本記事では、川島作品にとって最重要となる「不安」というテーマと、モチーフとして一貫して描かれている「少女」について、意見が交わされた。

川島作品の根底をなす「不安」とは?

川島優《炎舞 -TOXIC-》2023, 227.3 × 182.0cm, 麻紙・墨・岩彩・銀箔

土方:川島さんは論文やこれまでの展覧会において「内面に潜む不安」という内容を絶えず意識している。このテーマについて教えていただけますか?

川島:世上的な不安はもちろんですが、個人的な不安を強く感じていて、それが作品に現れているのだと思います。僕は “内面” という言葉をよく使っていたのですが、FACE展作品の制作後に「自分の内面って一体何なのか」と分析をしたとき、それが「不安」ではないかと気がつきました。そしてその「不安」が次に孤独や孤立に繋がるのではないかとも。自分が孤独になった時に、人に対して抱く気持ちや不安定な部分が、作品にかなり影響しているのだと思います。

土方:川島さんにとって絵というのは、必要不可欠な自然的なものなんだね。川島さんが抱えている不安や内面がどういうものかは分からないけど、おそらくそれは誰しもが持っているものに通じるものがあると思う。川島さんの場合はそれを作品にして、可視化すること・表現として顕在化させることによって、自分をひとつひとつ見つめ直しているのかもしれない。

儚さと強さー少女という存在の二面生

対談中の川島優、背景作品《Ghost》2023, 65.2 × 65.2cm, 麻紙・墨・岩彩・銀箔

土方:川島さんにとっての重要なモチーフである「少女」だけどね、少女を見ていたら、ある時ふっと、川島さんの自画像にも見えてきた。なぜ少女というモチーフに集中しはじめたのですか?

川島:学部4年生の時の卒業制作は自画像で、僕自身をモチーフに描いたんです。自分の感情が世の中にも通じていて、世の中の感情も自分に通じているみたいな世界を描きたくて展開したのですが、、、自我が強すぎて、直接的な作品に感じたんです。ある意味で単調な表現に感じてしまった。

一方で古代より女性像は感情の象徴として描かれてきた経緯があるので、感情の象徴として、自身の内面を女性に置き換えて描いてみようと思ったのが一番最初でした。その中で、少女という存在は弱々しい側面を持っていますが、ただ弱々しいわけじゃない。彼女たちが強い意味を持ってそこに存在しているとしたら? と考えてみたんです。その時の僕は20歳を超えていたので、少女を描いた時にアンバランスさが生まれるとも思ったんです。

土方:不安定さ、ということ?

川島:はい。子供なのにちょっと大人のような目をしていたり、弱いけれど強がっている部分とか。そういったものを描くための自分の代理人として、今描いている少女が少しずつ出来上がってきたのかなと思っています。

川島優 卒業制作《あらゆる境涯を汚染するもの あらゆる境涯を浄化するも の》2013, 227.6×182.2cm, 雲肌麻紙・墨・岩絵具・加工銅粉・銀泥・銀箔

川島優《-emon -Remind-》2023, 65.2 × 65.2cm, 麻紙・墨・岩彩・銀箔

作家の内面が強く露出する、少女の面差し

対談中の土方明司、背景作品《-Evil- Remind》2023, 65.3 × 65.3cm, 麻紙・墨・岩彩・銀箔

土方:この少女はアノニマスというか、仮面のような匿名性を有しているね。モデルはいるんですか?

川島:ポージングや人体の骨格のためにモデルは使います。僕の場合は3人のモデルさんを使って、パーツ同士を複合してひとりの人物に書き直します。2人だとどっちかによってしまいますが、3人を複合することによって、自分の形に転換できる。3人を複合することでどの作品も僕の形に引っ張られてくるので、類似した感じに見えるんだと思います。

土方:特定の個人から離れてきていると?

川島:はい。

土方:顔もモデルを使うの? それともこれはあなたの想像?

川島:顔もモデルを使いますが、参考にするのはパーツの配置や人体のバランスぐらいで、ほぼ僕のイメージですね。顔の表情については、自分の色が一番出ているというか、持っている形を描き出す場所になっています。

川島が目指す日本画の行く先

土方明司 × 川島優

土方:日本画は川島さんに深いつながりがあるものだけれど、川島さんにとって日本画って何だろう?

川島:滅亡論なんかもありますが、僕は個々の作家がそれぞれで日本画の答えを出していくのだと思います。その中で僕は「僕自身が日本画になりたい」というのが答えです。現代アートのステージで作品を展開していく先に、僕自身が日本画として認知されることがあると思っています。だからこそ、今後も自分の世界と技術と信念を突き通して、展開し続けていきたいです。

土方:川島さんの作品の魅力は、日本画における顔料の美しさ、あるいは墨の美しさ、そして何ともいえない線の美しさだよね。西洋・海外は基本的に面の世界だから、やっぱり色面で見せていく。対して日本の伝統絵画というのは線の絵画だから、線の美しさが重要になってくる。それは一歩間違えると、西洋の人から見ればデザインや装飾になってしまう。

それをうまく回避しているところが、川島さんがコンテンポラリーとしての日本画を成立させている理由だと、僕は勝手に思っている。現代的なデザイン感覚とイラスト感覚を伝統的な日本画に上手く落とし込んで、独自の表現を生み出した。日本画の技法や画材も深く研究しているからこそ、独自性の高い作品になっている。

川島:ありがとうございます。僕自身も日本画的な物質感は非常に大切な部分です。先人たちへのリスペクトもあるし、僕が培って触ってきた日本画的な概念が形や質感として表現できるのかなと思います。

常に新たな表現を目指して

『川島優: PATHOS』ホワイトストーンギャラリー ソウル

土方:今後の展望について教えてください。

川島:2024年1月のソウル個展では、今までとはアプローチを少し変えて、悪魔をモチーフに制作しました。ファム・ファタルをベースに、テーマをいろいろと自分の中で絞っている最中で、新しい展開をしてみたり、あえて人物を描いたものを破壊していくという試みを行っています。今後も自分の中に揺さぶりをかけて、また新たな形を探っていきたいなと思います。

【川島優: PATHOS】

川島優

対談の最後に「絵を描くこと自体が僕にとって自分が生きていると感じられる行為なんだと思います。逆に言うと自分が生きることを示すことが絵を描くことでもある。だから。どんな状況にあっても生涯描き続けることを念頭に起きながら、今後も制作していきたい」と語った川島。

払拭できない個々の不安と、幸福だけで満たされることのないこの憂わしげな世界。そんな世界で不安を抱きながら川島は今日も絵筆を手に、少女たちと世界をわたり歩いていく。

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