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建築家・隈研吾とアートとの邂逅|WHITESTONE新スペース設立記念

2023.04.28
INTERVIEW

隈研吾 ホワイトストーンギャラリーシンガポール

銀座の2店舗をはじめ、軽井沢、台北、香港にスペースを有するホワイトストーンギャラリー。この2023年には北京、シンガポール、ソウルの3スペースを新たにオープンする。新スペースオープンに関しては、建築家として名高い隈研吾氏に設計を依頼。国内外で様々な建築プロジェクトに携わる隈研吾氏に、ホワイトストーンギャラリーの新スペース設計についてお聞きした。

日本を代表する建築家・隈研吾とは

Whitestone Gallery Beijing Photo by Zhu Yumeng

1970年代後半から注目を集めはじめた隈研吾は、1990年代には日本の建築界を代表する存在となり、「那珂川町馬頭広重美術館」や万里の長城近くの「竹屋」などをきっかけに国際的な知名度が上昇。現在も国内外を問わず数多くのプロジェクトに携わっている。

隈氏の建築は、自然や光の表情を取りいれたデザインや、周囲の環境との調和が特徴として挙げられる。材料の特性、中でも木材を活かした構造とデザインで、「和の大家」と呼ばれることも。自然・技術・人間の新しい関係を切り開く建築を提示してきた人物である。また、自身の活動に関して文章を綴ることを慣習としており、これまでに多くの著作を執筆している。

隈研吾とアートの出会い、決別、再会

隈研吾 ホワイトストーンギャラリー北京にて

大小を問わず、さまざまな場所でさまざまな建築をデザインしてきた隈研吾だが、学生時代には建築家とアーティスト、どちらの道に進むか、悩んだ時期もあったという。高校時代の隈氏はワシリー・カンディンスキー(1866~1944)の著作『点・線・面』(原書1926年、邦訳1959年)を愛読するほどアートに興味を持っていたが、外の世界とより密接に関係する建築の道に進むことを選んだ。

建築家として走り続ける隈氏は、アートに関する建築も多く手掛ける。「ベニス・ビエンナーレ’95 日本館会場構成」(1995, イタリア)から始まり、材料や施工との向き合い方に関して隈氏に大きな影響をもたらした「石の美術館」(1998, 日本)、浮世絵師の歌川広重の作品にみられる空間構成を建築に翻訳した「那珂川町馬頭広重美術館」(2000, 日本)、自然とアートを融合させた「長崎県美術館」(2005, 日本)、日本の伝統的な建築技法・無双格子にヒントを得た「サントリー美術館」(2007, 日本) 、都内の喧騒から美術館という精神世界に来館者を引き込む「根津美術館」(2009, 日本)と国内で多くの美術館を設計した。

一方で2010年代からは、国外の美術館設計も多く行う。粒子が集積したかのようなやわらかなファサードが特徴的な「マルセイユ現代美術センター」(2013, フランス)、かつて茶畑だった丘と一体化する「中国美術学院博物館」(2015, 中国)、建物を貫通する大きな孔によって街と川を繋げようと試みた「V&A at Dundee」(2018, イギリス)、4枚の地殻プレートの衝突という特殊な歴史を有する武蔵野台地を彷彿とさせる荒々しい「ところざわサクラタウン 角川武蔵野ミュージアム」(2020, 日本)、世界の五大陸を模した庭園のある「アルベール・カーン美術館」(2022, フランス)、童話作家・アンデルセンの作品特徴を空間に落とし込んだ「ハンス・クリスチャン・アンデルセン美術館」(2022, デンマーク)など、その地域、その美術館で扱うテーマに合わせて隈氏の建築は姿を変える。

ギャラリー設計に関しては、2017年に「ホワイトストーン・ギャラリー台北」を、2018年には「ホワイトストーンギャラリー香港 / H Queen’s」の内装を手掛けた。両スペースとも美術館に比べれば小ぶりなものの、そのデザインには隈氏の建築理念が明確に現れている。

ホワイトストーンギャラリー香港 / H Queen’s

ーギャラリースペースという使用目的が明確な空間に関して、どのような点を重要視していますか?

 アートの空間は、私たちを日常の世界から非日常の世界へ導いてくれる特別な場所です。光、音、温度や空気を感じながら、自らの足で作品と巡り合う高揚感。何とも言えないワクワクするような期待感や驚きを感じる導入部の空間。そして訪れた観客が時間を忘れて作品に没頭してしまう空間が、アート鑑賞に必要な要素だと思っています。そのために、建築的な存在感を消した抽象度の高い展示空間をうまく組み合わせてデザインをしています。

隈研吾によるホワイトストーンギャラリー北京の構想スケッチ

ー仕事において影響を受けたアーティストはいますか?

 白髪一雄の作品に感銘を受けました。彼の作品は、西洋発の抽象画と違って、人間を描くブラッシュの先端の動きを通じて、人間の肉体が海外へ生々しく投影されることを可能にした。私の建築も、彼のような質感を与えるようなものになることを目指しています。

スターバックスコーヒーの創業者であるハワード・シュルツ氏と以前に歓談をした際に、シュルツ氏の自邸に白髪一雄の作品が飾ってあり、偶然にも同じような感性を持っていることに話が盛り上がりました。

ホワイトストーンギャラリー 台北での『具体人 in 台北』2019より、右壁に白髪一雄の作品が並ぶ

隈研吾が考える「WHITESTONE」

ホワイトストーンギャラリー台北

ホワイトストーンギャラリー台北は、隈氏による初めてのホワイトストーンスペースの設計だった。木のファサードを有するギャラリーには、105mm角の断面寸法を持つヒノキ材だけを使用。木材をずらしながら積み上げていくことで、既存ビルの硬直的な構造フレームとは分離された、オーガニックなスペースが都市の中に創造された。

同一寸法のヒノキ材はインテリアにも用いられており、階段やカウンター間にゆるやかな仕切りを形成していく。単一のユニットを用いることで、複雑で多様な空間が生成され、ホワイトキューブを超えるアート空間の可能性が追求されている。

ー2017年にホワイトストーンギャラリー台北を、2018年には香港の内装も手掛けています。ホワイトストーンのギャラリーを設計する際にどのような点を意識していますか?

隈 ホワイトストーンのデザインでは、都市のキャラクターを体現した力強い「アイデンティティ」と、平面作品からメディアアートまで急速な進化を遂げる現代アートを受け入れることができるような「フレキシビリティ」を、いかに両立させるかに重きをおいています。

都市のアイデンティティとエネルギーを体現したランドマーク的な存在感で人々を惹きつけながらも、一歩足を踏み入れれば周囲の雑踏から切り離された静寂と「非日常」の空間がある。そんな、未知なるアートの世界への驚きが待ち受けているようなダイナミックな体験をイメージしながら、デザインしています。

隈研吾によるホワイトストーンギャラリー北京の構想スケッチ

ー最後に、2023年は北京、シンガポール、ソウルとアジアへの新拠点設立が続きます。その土地の文化や風習、歴史は設計にどのように影響しますか?

 世界各地ですすめているホワイトストーンの仕事では、その都市のカルチャーや特徴を空間に翻訳し、都市の中で人々を惹きつける「ランドマーク」としての存在になるようなデザインを目指しています。1つの固定した方法を各地のスペースデザインに展開するのではない。ホワイトストーンが、都市の中心で、都市のアイデンティティを、パワフルに体現した、求心力のある「目的地」となるようなデザインを考えています。

Grand Opening Exhibition – We Love China

木材や石といった材料の特質を建築の主体にまで押しあげた隈研吾。彼はまた、建築がどんな場所として使用されるのか、どんな場所に建てられるのかといった特性を、建築において結合させる。ホワイトストーンというギャラリーと隈研吾という建築家の化学反応は、各スペースにどんな違いをもたらすのか。隈研吾氏の独自の世界観から生まれるギャラリースペースにご期待ください。

隈研吾 ホワイトストーンギャラリーシンガポール

建築家・隈研吾について

隈研吾 (c) J.C.Carbonne

1954年生。1990年、隈研吾建築都市設計事務所設立。慶應義塾大学教授、東京大学教授を経て、現在、東京大学特別教授・名誉教授。30を超える国々でプロジェクトが進行中。自然と技術と人間の新しい関係を切り開く建築を提案。主な著書に『点・線・面』(岩波書店)、『ひとの住処』(新潮新書)、『負ける建築』(岩波書店)、『自然な建築』、『小さな建築』(岩波新書)、他多数。

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