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塩沢かれん × 土方明司|共感を誘う夢幻の筆致

2024.05.10
INTERVIEW

土方明司 × 塩沢かれん

川崎市岡本太郎美術館の土方明司館長がアーティストとの対話を通して作品に迫るシリーズ。第5弾では、五感に訴える表現を模索してきたアーティスト、塩沢かれんとの対談を実施した。

幼少期の多感な時期をオランダで過ごしたという塩沢の原体験が、彼女の作品にどのような影響をもたらし、どのように鑑賞者とのコミュニケーションを形作っているのか。オランダという国の風土と独特の絵画的歴史に照らし合わせながら、土方館長が独自の視点で塩沢作品の魅力を解き明かす。

塩沢かれん 作品について

幼少期の足跡:オランダでの原体験

"KAREN SHIOZAWA: Secret Place - Finally met" Whitestone Gallery Seoul

土方:今に至るまでの塩沢さんの歩みを聞いてみたい。お生まれはどちら?

塩沢:生まれは日本です。1歳頃にオランダに行って5歳になる頃に日本に帰ってきました。

土方:幼少期の原体験がオランダなのですね。オランダでの生活は塩沢さんが絵を描く時やものの考え方、 感じ方において、大きな要素を占めているのかな?

塩沢:そうですね。多感な時期に大きな世界、そして自然の中で育ったという経験は、作品に影響していると思います。ただそれ以上に、子供の頃の不思議な体験をテーマにしている部分が強いですね。

土方:僕は遥か昔、若い頃にオランダに行ったことがある。オランダは短い滞在でしたけど、非常によく覚えています。ヨーロッパの中でもオランダってちょっと不思議な立ち位置というか、風土をしている。塩沢さんの不思議な体験とは具体的にどんな体験?

塩沢:現地の幼稚園に通っていた記憶が一番強いのですが、多国籍の子どもたちがたくさんいる中で、言葉もまだ通じないような時に、絵を描いたり、歌を歌ったり、そういった単純な方法でコミュニケーションをとっていたんです。その時の記憶が非常に強いからこそ、大人になった今でも他者とコミュニケーションをとる時に「一番大事なことは意外と単純なことではないか」と、制作を進めていく中で思うことがありまして。だから今でも、子どもの時の記憶だとか体験をテーマにした作品を作っているのだと思います。

Who is 塩沢かれん?

内面世界を育む、おとぎ話の景色

"KAREN SHIOZAWA: Secret Place - Finally met" Whitestone Gallery Seoul

土方:小さい時に住んでいたのは自然豊かな場所?

塩沢:アムステルダムの方に住んでいて、家の周りは遠くまで広がる草原とその中にぽつんと木が立っているような感じで。さらにその中に小さな家々がたくさん並んでいるような、そういった景色の記憶があります。

土方:童話的な風景だね。

塩沢:とても童話的でした。だからこそ、そういう景色を描くのが好きなのだと思います。

土方:ヨーロッパの中でもオランダという国は、室内画や風景画というものが非常に発達した国で、ヨーロッパの他の国々に比べると、キリスト教の縛りが比較的少なかった。そのため内面的な世界や個人的な世界を絵に託していくということがオランダから始まったと、言われることもあります。塩沢さんもどちらかというと内面的な、個人的な世界をずっと描いておられますよね。

塩沢:内面から出てきた記憶や気持ち、人間の個々の感情から来るものを作品で表現したかったり、描きたかったりするのかなと最近は思っています。

オランダの陽光がつづる叙情的風景

土方明司

土方:塩沢さんとの対談で何を話そうかなと考えている時にふと、ピーター=リム・デ・クローン(Pieter-Rim de Kroon, 1955–)という映画監督による『オランダの光』(原題:Dutch Light)というドキュメンタリー映画を思いつきました。美術の世界でも評判になった映画で、監督は映画の中で、オランダにレンブラントやフェルメールを生んだ光があるということを伝えている。塩沢さんはオランダの光ということを意識したことはありますか?

塩沢:昔は気づかなかったんですが、大人になって改めて自分の描いている作品やオランダの作家さんの作品を見ていると、共通した光の色というか、色彩というか、暖かい雰囲気というか、、、うまく言語化できませんが、独特のものがあるのではないかと私自身も思っています。

特に黄色い光というか、暖かい感じの雰囲気というか、、、昔住んでいたオランダでは、落ち着くような牧歌的な家々が並んでいる中に朝日が差し込んでくるような景色があって、その風景が一番記憶に残っています。そういった所に共通点やルーツがある気がしますね。

塩沢かれん:Secret Place - Finally met

美術への扉を開いた夏

"KAREN SHIOZAWA: Secret Place - Finally met" Whitestone Gallery Seoul

土方:美術大学に進もうと思ったきっかけは?

塩沢:本格的に美大に進もうと思ったのは、高校2年の夏です。将来どのような仕事をするのか迷っていた時期がありまして。その時にたまたま絵画のコンクールがあって、思い切って自分の描きたいものを描いてみようと作ったのが《記憶》という作品でした。

多国籍の人物が現代にいるというような油絵作品で、それを描いた時に「今一番楽しいな」と思いましたし、展覧会でも賞を取りました。その中で、将来の選択肢に美術という道を入れてもいいのではないかなと。どうなるかわからないけど、やってみたらいいんじゃないかなって思うようになりました。

 

光とコミュニケーションの追求へ

塩沢かれん

土方:実際に美大に進んで、どういう絵を描いていたのですか?

塩沢:シュルレアリスム的な絵画というか、少し具象っぽくて、ダリ(Salvador Dalí, 1904–1989)みたいな絵を描くのも好きでした。

土方:ダリって聞いて意外だったのだけど、シュルレアリスムの世界ではレオノーラ・キャリントン(Leonora Carrington, 1917–2011)っていう方が、塩沢さんの世界に近いかなと僕は思った。フランスからメキシコに移って、エルンスト等作家たちの影響によって海外でシュルレアリスムに目覚めた女性でね。非常に神秘的な絵画を描くので、僕は塩沢さんにキャリントンの絵に近いものを感じました。

塩沢:学部1年の頃はそういった絵を描いていたのですが、学部3年頃にジョルジョ・デ・キリコ(Giorgio de Chirico, 1888–1978)を研究する機会があって。白昼夢的な世界に惹かれて、自分の描きたいものに誠実に向き合っていると感じました。彼の絵画の研究を通して、私自身も自分の描きたいものを抽象的に表現していいのではないかと考えるようになりましたね。学部の卒業制作では、初めて絵画とインスタレーションを1室まるまる使って、自分の作りたかった世界を表現しました。

土方:具体的にどういう世界?

塩沢:一言で言うと、白昼夢的な世界でしょうか。

土方:ジョルジョ・デ・キリコのような?

塩沢:現実と非現実というか、意識のずれから生まれるものは何か、みたいなものを表現したかったのが、学部4年の時でした。

"KAREN SHIOZAWA: Secret Place - Finally met" Whitestone Gallery Seoul

土方:普段からそういうことを意識なさっている?

塩沢:どうなんでしょう、多分無意識ですね。無意識にこぼれ落ちていたものを後から拾い上げて、あの時こういうことを考えたとか、ああいうことを考えていたという風に見返して、それが作品になっているという感じがあります。

土方:夢の世界に近いのかな。

塩沢:そうですね、卒業制作の時は非現実的な部分の要素が強すぎて、ちょっと内向的すぎたといいますか。人に見ていただける機会が増えて、私がやりたかったコミュニケーション的な部分について「今度は他者に伝えるためにはどうしたらいいんだろう?」と悩んだのが大学院の時でした。

それで、他の人と共有する方法を模索した時に「光」をテーマに作品を作るようになりましたね。光はそれまでも作品に出てはいたのですが、「光」というシンプルなテーマに改めてフォーカスした時に、作品が開かれたというか、自分の中で作品の幅が広がった感じがしました。

土方:人に伝えるっていうことを大学院で意識するようになったと。それは幼少期の絵を描くことがコミュニケーションのきっかけになることが、戻ってきたという感じ?

塩沢:戻ってきたというか、それまでは自分の世界だけで完結していた部分というのを、伝えることで生まれる感情を大切にしたいと改めて思った時に、自分の世界の中のものを一回開かなきゃいけないなと思いました。

土方:その考えはすごく大事なことで、それがないと自己満足的なものになってしまいますよね。優れた作品というのは、自分の世界をちゃんと出しながらも人に伝える力を持っている。人がそれを見て共感したり感動したりできるのが、一流の作品の条件。そして、人にこびる絵ではなくて、塩沢さんは自分の世界を広げる・解放することに気がついたということが非常に素晴らしい。ある意味では、このプロセスが今の塩沢さんの作品が多くの人に共感される証かなと思います。

土方明司 × 塩沢かれん

言葉を超えたコミュニケーションを模索しつづける、塩沢かれん。彼女の作品は幼少期の経験から生まれる幻想的な世界を表現している。うららかな昼下がりの陽光、建物の隙間を縫うように沈んでいく赤い夕焼け、夜をやさしく照らす月光。二つとして同じ光はないからこそ、彼女独自の経験と記憶が絵画に生き生きと踊り、鑑賞者との強い共感を呼び起こす。

対談前半の記事では、塩沢かれんの制作方法や展覧会のテーマについて詳しく語られています。こちらも併せてご覧ください。

対談前半|光の魔法が映し出す心の奥底

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