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MADARA MANJI × 土方明司|火と金属で紡ぐ人間の精神

2024.07.05
INTERVIEW

土方明司 × MADARA MANJI

川崎市岡本太郎美術館の土方明司館長がアーティストとの対話を通して作品に迫るシリーズ。第6弾は、日本の伝統的な彫金技法「木目金」を作品に用いる、現代アーティストの MADARA MANJI との対談を実施した。

さまざまな種類の金属を混ぜ合わせることで、独特な斑模様を生み出す MADARA MANJI (マダラ・マンジ)。今回は土方明司が作家のアトリエを直接訪問し、その制作方法から MANJI の作品の魅力を解き明かす。


日本の伝統的彫金技法「木目金」

MADARA MANJI のアトリエは、とあるビルの中にある。個展に使用した資料や、作品のサンプル、工具、その他雑多なものがひしめき合うアトリエだ。ワンフロアのアトリエには、火を入れる「火口場」と金属を叩く「鍛金」のための場所が用意されている。

Madara_Manji

制作のための素材を手に持って説明するMANJI。

MANJI:これが作品の最初の状態です。何十枚も重ねた金属の板を熱で一つの個体にしたもので、これをひたすら叩いて薄くします。途中で削ったり磨いたりしながら、模様を出して最終的に大きな板状にします。

土方:これが「木目金(もくめがね)」という伝統技法なの?

MANJI:基本はそうですが、僕なりにアレンジを加えています。木目金は小さいものを作る技術なので、面積が大きくなればなるほど、作業が大変になります。また硬度や融点などの性質が種類ごとに違うため、性質の違う金属が混ざり合えば混ざり合うほど、加工しづらくなるという特徴があります。

土方:当然そうなるよね、金属の種類が違うんだもの。

MANJI:金属同士の反発があって加工が難しいですが、僕は大きい面積の木目金をアートに転用したかったので、それを克服するためにアレンジを加えています。

Madara_Manji

何十枚も重ねた金属個体に火を入れる様子

MANJI:熱した個体を次に叩きます。

土方:どれだけの厚みにするの?

MANJI:模様を出しつつ、このブロックを厚さ1mmまで薄くしていきます。

土方:何種類の金属を積層させているの?

MANJI:作品によって違いますが、だいたい2種類から4種類ぐらいですね。金属の種類によって色味が異なります。この個体は、純銅、純銀、銅と銀の合金、銅と金の合金の4種類を混ぜていて、一番カラフルなタイプです。

土方:それは伝統的な技法に基づくの? それともオリジナル?

MANJI:伝統でもあり、オリジナルでもあります。「赤銅(しゃくどう)」という日本で古くから使われていますが、海外では珍しい合金なども使っています。その他にもさまざまな金属を使いますが、割合などは自分で決めて、他社に素材の制作をお願いしています。

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数回叩いた後の個体。よく見ると表面に凸凹ができているのが分かる。


破壊的行為を通して考える「人間の精神」

何層にも重ねた非金属の塊はおよそ900℃まで熱せられ、その後、数万回という途方もない回数のハンマーでの打撃を受ける。素材にとっても、また作家にとっても激しく過酷な制作。決して簡単とはいえないその制作方法を、MANJI はなぜ選んだのだろうか?

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熱した個体を叩く様子、部屋に甲高く力強い音が響く。

土方:制作について、火を入れること、鍛金=叩くことにはこだわりがありますか?

MANJI:あります。僕が作品を作りたかったのは「人とは何か」というテーマからです。心理学や哲学といった精神面からアートに興味を持ったので、人の精神のあり方を視覚情報に置き換えたかったんです。

人という存在は非常に複雑で、さまざまな要素が混ざり合っています。そのため、異なる素材を混ぜることでその複雑さを表現しようと思いました。最初は粘土を使ってみましたが、粘土は混ざり合うのが当たり前なので、自分のイメージとは違う。人の精神には混ざり合わない要素が共存し、その間にストレスや葛藤が生まれることがあります。だからこそ、あえて混ざりにくい素材を選びたかったんです。

それで最終的に選んだのが「金属」でした。金属は熱と打撃によって成形されますが、これらは基本的に破壊的なエネルギーです。この強いエネルギーによって金属が割れることもあるけれど、耐え抜くことで美しい造形が生まる。このプロセスが自分のコンセプトに非常に合っていると感じました。

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ハッキリと映る年輪状の円模様と霞がかった斑模様。熱し叩くことで様々な模様が浮かび上がる。


人間の五感に根差した、原始的な創造

Madara_Manji

土方明司 × MADARA MANJI

土方:毎日これらの作業をしているの?

MANJI:叩く作業は、最初のマテリアルの製作です。マテリアルができたら、それをカットして、溶接して、研磨して、仕上げを行うなど別の工程に移ります。全体の工程で言うと、叩く作業と造形作業は半分半分くらいでしょうか。

土方:この作品はどのくらいの重さがあるの?

MANJI:軽いですよ、1kg ほどです。

Madara_Manji

着彩前の状態。金属の着色技法として伝統的な「煮色着色」という色揚げ方法を用いることで、表面を意図的に酸化(錆び)させることで、鮮やかな色彩へと変貌を遂げる。

土方:MANJI さんの作品について、まず火を入れて叩くということは、物質と人間との原初的なつながりを表す行為だよね。特に金属の場合、火を加えて組成を変えるということは、新しい生命を生み出すということです。

例えば、西洋では錬金術につながるけれど、日本あるいは東洋ではその行為自体に大きな意味を見出している。アトリエで実際に制作の様子を見てみると、その行為と原初的なつながりを体感できるし、またこういう過程を経て生まれた作品は説得力を持っている。

作品をこれからどのように展開させていくかが一つの課題になってくるだろうけど、実際に自分で火を入れて、マテリアル=材料を五感によって自分の中に取り入れて、それを叩き上げていく。それがあれば、どう展開していったとしても、見る人に対して強く訴えるものになるだろうと、思いましたね。

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赤褐色と黒、白銀による模様が顕現する MANJI の作品。キューブシリーズでは立方体の一角を切り落とした形にすることで、緊張感のある作品となる。

アトリエでの対談を行ったのは6月上旬。梅雨入り前で夏本番には程遠い時節だったが、MANJI が火を使い始めた途端に、部屋の隅々にまで熱風が届き、全体に激しい熱さが立ち込めた。熱した塊を叩き上げる作業に入ると、甲高い音が空気を強く震わせる。

火を入れ、叩く、という破壊的な行為が、完全には混ざり合わない非金属を時にゆるやかに、時に渦のような激しい潮流を生み出しながら、共存させていく。

記事後半では、MADARA MANJI がアーティストとしてデビューするまでの半生と、現代アーティストとして活動していくことへの葛藤、そして今後の展望について語られた。

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