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塩沢かれん × 土方明司|光の魔法が映し出す心の奥底

2024.05.07
INTERVIEW

土方明司 × 塩沢かれん

川崎市岡本太郎美術館の土方明司館長がアーティストとの対話を通して作品に迫るシリーズ。第5弾は、五感に訴える表現を模索してきたアーティスト・塩沢かれんとの対談を実施した。

塩沢かれんは、光や音などの現象を追求し幻想的な世界観を作り出す現代アーティストのひとりである。その作品は日本国内だけでなく、国外でも多くのファンを魅了してきた。対談では、塩沢の作品が人々に与える共感や、彼女が制作を通じて探求してきた他者とのコミュニケーションについて、塩沢作品の魅力が語られた。

光が照らすそれぞれの道しるべ

塩沢かれん《アリスの時間》2023 より

土方:塩沢さん作品の特徴といえば「光」。普段我々は光を見ることができないけれど、その光をうまく表現なさっている。塩沢さんにとって「光」って何だろう?

塩沢:一種の「道しるべ」でしょうか。光がないと人って目の前の景色が見えないと思うのです。私の今見ている景色と他の人が見ている景色は、絶対に違うところがある。そしてまた、今感じている私の気持ちひとつとっても微妙な色のずれとか見え方って変わっていく。

私にとって、光は人の気持ちや感情とか、そういったもの全てを映し出してくれるレンズのような存在でしょうか。その光をテーマにイメージすることで、他の人との認識のずれや視覚的な意識のずれに共感できるのではないかという思いがあります。

土方:塩沢さんの描く光は内面を照らす光、内面性を象徴する光、なのかな。

塩沢:そうですね。光が当たった瞬間にものって認識できると思うんですよ。私の作品に表れる光、例えば上からの光が当たったときに出てくる影やもの、そういうものこそが私が感じている景色やイメージだったりします。何かを照らしてくれる、何かを認識させてくれる存在、みたいな。そういう意味でも、やっぱり「道しるべ」っていうのが一番しっくりきますね。

Who is 塩沢かれん?

リアリティを削りだす、重層的なマチエール

土方:塩沢さんの作品は、光や音など見えないものを可視化させていると同時に、マチエールが非常に凝っている。実際に作品を見てみると重層的っていうのかな、色んなものが重なって見えるレイヤーがある。それによってファンタジーを超えて、絵の中にリアリティが生まれていく。それが塩沢さんの作品の特徴であり、強みでもある。

独特の技法による描き方にその要因があるのではないかなと思っていて。種明かしをしてもらえますか?

塩沢:一言で言うと、子供の頃によくするような、クレヨンのスクラッチアートと同じです。 色んな色を重ねた後に暗い色で塗りつぶして引っ掻く。それと同じことを油絵作品でやっています。

私の場合は最初に、パネルにアクリル絵具やアクリル樹脂絵具など色がパキッとしている絵具を一面に塗ります。その色を覆い隠すように暗い色ですべて塗りつぶし、銅版画に使用するニードルという細い針のような道具で引っ掻いて、絵を描いていきます。

削って削って削って、ある時は部分的に絵の具をぬぐったりします。本当にさまざまな色が出てくるんですが、削り作業の後に上から油絵で加筆をします。点描というか、自分の表現したい光の軌跡を辿るように少しずつ塗ったり、スパッタリングを入れたりしながら、柔らかな光を表現しています。

土方:簡単に説明してくれたけど、実は手間も時間もすごくかかっている。だからこそ、非常に厚みのある世界、存在感のある絵画が生まれるんだね。

塩沢:使っている油絵具の色は1、2色で、黒と青だけです。あとの色は全部下から出てきている色です。

土方:なるほど、塗るというよりは現れるっていう感じだね。絵が。

塩沢:そうですね! 影の世界から浮き出てくるような、光が物を照らす原理と同じように、私の描き方も光の仕組みと共通する部分があるのではないかと思っています。削ることによって色や形が出てくるような。

土方:塩沢さんのその思いがちゃんと伝わります。

異なる視点での共感:国内外での展覧会を経て

星祭りの参列者, 2022, Whitestone Gallery Taipei

土方:これまでに銀座、台北、軽井沢、北京と個展を立て続けに行っている。相当プレッシャーがあったんじゃないですか?

塩沢:台湾で初めて個展をした時に一番プレッシャーを感じましたが、自分の絵を信じていました。言葉では伝わらないパワーみたいなものをテーマにしているからこそ、他の人であっても、日本の方でも他の国の方々とでも、絶対に分かり合える部分があるんじゃないかと思っていて。だからこそ他の国で展示をしてみたいという思いも強かったので、期待もありました。

土方:台北のホワイトストーンギャラリーは以前に一回行きましたが、隈研吾設計の素晴らしいギャラリーでかなり広い。実際に展示してみていかがでしたか?

塩沢:コロナ禍ということもあって、現地には行くことはできませんでしたが、展覧会が始まってすぐにSNSなどを通して色んな国の方からメッセージを頂けたのが、本当にすごく嬉しかったです。初めて自分の作品で会ったこともない方と共感できたという体験が、まず一番嬉しかった。

音の海を超えて, 2022, Whitestone Gallery Karuizawa

土方:北京はいかがですか?

塩沢:北京は実際に行くことができて、展覧会で日本の方と話す時とは、別の視点から作品に興味をもってもらえていると改めて感じました。いろんな視点からの意見をもらえたことが、いい刺激になったと思います。一方で作品の前でいろんな人と話している時間は、日本でも北京でもどの国でも変わらないので、同じ時間を共有できていることが純粋に嬉しかったですね。

土方:日本との反応の違いとは?

塩沢:私の個人的な感覚ですが、日本では視覚的な部分を含めて、その裏にある詩的な部分やコンセプト、文章など背景の要素に興味をもっている方が多いように感じます。一方で北京では、視覚的な色や光から入って、そこから自分で想像をふくらましていく会話も結構多かったです。作品への接し方、入り方の視点が違うのかもと思いましたね。

Masquerade of Light, 2023, Whitestone Gallery Beijing

土方:短期間に大きな展覧会がいくつもありましたが、ひとつずつテーマが違いますよね。テーマの選び方は?

塩沢:まず展示場所や空間を見た時に、いろいろと思い浮かびます。でもどの展覧会も大本のテーマは一緒です。その中で鑑賞者に伝わりやすいようなサブテーマみたいなものを考える時に、展示場所や構造、国柄などを全て加味した上でテーマを決めています。

例えば北京の時は、展示場所の天井が高く、細く入り組んだような構造だったので、教会にいるような印象でした。私の絵の中の住人たちが踊っているようなイメージがあったので、光の仮面舞踏会というテーマをつけました。逆に軽井沢の時は、水と自然のイメージが強かったので、「音の海を超えて」というテーマをつけさせていただきました。

土方:音にしても光りにしても、普段意識はしているけれども、目に見えないんですよね。

音の海を超えて:インタビュー

塩沢かれんの未来への挑戦

Masquerade of Light, 2023, Whitestone Gallery Beijing

土方:塩沢さんの今後の計画や抱負を教えてくれますか?

塩沢:今後も海外での展示が続くので、日本での展示も含めて、もっと多く、いろいろな人に作品を見てもらいたいという純粋な気持ちを持っています。それとは別に、今までの絵画作品とは別の表現方法やマテリアルの作品があっても良いんじゃないかと思い始めていて。自分の表現したいことに対して、手法や表現方法をもっと貪欲に模索していきたいなと思っています。

塩沢作品のマチエールや重層、独特の光の印象などに触れた土方館長だが、「塩沢さんの作品には旋律というかリズムというか、音楽性が視覚化されているような部分がありますよね。見ていると、本当に旋律が絵の中に封じ込められているように感じる」と、作品の中に見える音楽性について触れる場面もあった。流れるリズムに乗りながら、踊るように煌めき揺らめく光。物事の本質を照らしだす光のメロディを、ぜひ作品で直に感じてみてください。

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