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現代装飾家・京森康平が挑む浮世絵

2022.12.22 台湾
INTERVIEW

古今東西の装飾を現代アートとして作品に落とし込む、現代装飾家・京森康平。様々な意味を有する装飾を煌びやかな色彩で表現する京森は、装飾の役割や性質への徹底したリサーチをもとに、手工芸的思考を踏まえた技法によって制作を行う。そんな京森が今冬の展覧会で自身の作品を元にした浮世絵を発表。浮世絵を手掛けることになった経緯や、木版を行った職人たちにインタビューを敢行した。

京森康平が浮世絵に惹かれた理由

制作の様子

ー今回木版画を制作しようと思ったきっかけは?

京森:常々日本の伝統性や世界との差異に大きな興味を持っていて、日本独自の文化をどう制作に活かせるか、ということを考えています。その中で、日本には浮世絵という重要な文化があり、その文脈の中に位置する木版という技術を使って、自分の作品を版画として作りたいという思いが以前からありました。

ー自身の作品を版画にするにあたって、なぜ浮世絵?

京森:独特のグラデーションや、背景の見せ方、人物の作り方など、日本独特の絵作りが魅力です。浮世絵は木版画という技術を駆使して当時の風俗を描きだした絵画とも言えますし、私自身浮世絵にインスピレーションを受けて制作した作品が多くあります。だからこそ、自分も浮世絵という手法で作品を作りたい気持ちが強くあったので、今回挑戦してみました。

2022に制作された新シリーズ、京森康平《O burn col.1》

ー今回の企画は京都にある「芸艸堂」との共同企画です。芸艸堂は木版印刷の書籍を刊行している日本で唯一の出版社で、これまで数多くの浮世絵を手掛けてきた出版元でもあります。芸艸堂の蔵にある木版画を見てどう思いましたか?

京森:これまでに手掛けてきた膨大な版木がきちんと所蔵されていることに、まず感動しました。私はもともと伊藤若冲という江戸時代の絵師が好きで、こちらの蔵では伊藤若冲が天井画のために描いた花の絵の版木も所有されているということで、実際の版木も拝見しました。

蔵自体は空気が重いというか、木と炭が充満した重厚な空気感を通して伝統とか歴史を感じました。貴重な資料がある蔵に入ることができて、素直に嬉しかったです。

明治24年から続く出版元「芸艸堂」の蔵にて

ベテラン彫師によるレーザーと手彫りの合わせ技

木版画はまず最初に「画稿(がこう)」と呼ばれる下絵を描いたのち、画稿を清書した「版下絵(はんしたえ)」が版画の最終稿となる。版下絵をもとに彫り師は木版画の命ともいえる版木を制作する。京森と浮世絵のコラボレーションには、彫り師として30年以上のキャリアを積む北村昇一氏が彫りを務めた。

ー“現代アートの浮世絵化”というオファーを受けたとき、どう思いましたか?

北村:原案を見せていただいたとき、色数や色版をうまく主線に入れるために高い精度が求められる、と思いました。今回はデジタルで描かれた作品ということで、デジタルデータを用いてレーザーで彫るという方法を試みています。手彫りとレーザーという、伝統と現代の技術を融合して良い表現ができればな、という思いで挑戦しました。

本企画のための版下絵

ー現代アーティストの作品を木版画にすることについて、どうお考えですか?

北村:私たちは伝統的な仕事に加えて、現代作家の方の仕事を受けることが少なからずあり、私にとってはとても刺激的な仕事です。伝統的な仕事だけを続けていると、今の時代のニーズに合っているかどうかを判断するのは難しい。現代の作品を通して、木版画を一般の方にアピールして興味を持ってもらうことは、非常に重要なことです。

そのため、アーティストの方と一緒に仕事をできるチャンスがあるのは、私にとって非常にありがたいですね。だからこそ、期待を裏切らないクオリティの高いものを仕上げなければならない、という想いもあります。

彫師・北村昇一氏の工房にて

ー実際に京森氏の作品を彫ってみて、どうでしたか?

北村:仕事の流れは一般的な浮世絵と同じなのですが、デジタルデータを利用することで手作業の部分を省くことができるのは大きいですね。そのままで使用することはできないので、レーザーで彫り上けた版木を修正をかけながら使える状態にしていきます。

デジタルと手作業で得意な部分と不得意な部分が異なりますので、両者をうまく共存させて不得意な部分を補うことは、とても有効な方法だと今回の企画で実感しました。

ー鑑賞する人に伝えたいことはありますか?

北村:パッと見ただけでは一般的な印刷物と木版画の違いは分かりづらいですが、近づいて見ていただければ、木版画の魅力が見えてくると思います。ぜひ細かいところまでじっくりご覧になってください。

色で表現する、現代アートと木版画の融合

摺師・平井恭子氏の工房にて

20年以上前に京都に工房を構える佐藤木版画工房に弟子入りし、以来伝統的な木版画の摺りの技術を学んできた平井恭子氏。長年摺師としてやってきた平井氏は、現代アートに挑むことは難しい仕事になるだろう、と思ったという。

ー現代アートの浮世絵化、というオファーを受けたとき、どう思いましたか?

平井:デジタル作品を木版画で刷るという新しい挑戦であることに加えて、京森先生の作品と木版の良さをどう共存させるかという点が気掛かりでした。

というのも、木版の顔料を紙に刷り込むと落ち着いた深い色合いに仕上がります。京森先生の作品の鮮やかさや緻密さを崩さないように、なおかつ木版画特有の温かみも損なわずに表現したかったので、その技術を必ずものにしたいという気持ちがありました。

摺師・平井の工房にて

ー京森氏の作品を見たとき、どのように感じましたか?

平井:はじめて京森先生の原案を見せていただいたとき、着物の図案帳に近いなと思いました。版元である芸艸堂さんのところに「綾錦」という図案集があるんですけれども、それを見たときの印象に近かったです。

ー実際に京森氏の作品を刷ってみて、どうでしたか?

平井:いつも仕事で制作している浮世絵は、最初にアウトラインがある中に色を当てはめていくんですが、京森さんの作品は色のパーツが組み合わさった作品なので、仕上がりが彫師さんの色分けに大きく左右されるなと思いました。

木版画の場合、最初に「捨て彫り」というアウトラインとなる版を彫師の方が彫ります。この捨て彫りがあるおかげで、刷る際に検討が必要な時も狂いが生じにくいですし、どれだけ版数を重ねても納得できる仕上がりになりました。今まではこのような機会が少なかったので、非常に良い経験になりましたね。

摺りに使用する刷毛。用途に合わせて様々な種類が用意されている。

ー当初気にされていた色についてはいかがでしょうか?

平井:デジタルプリントの色使いは現代の人にとって馴染みのある色使いなので、木版にどう落とし込むかが気掛かりでしたが、素材に助けられました。

デジタルプリントは紙の上にインクが乗っている状態と言えますが、木版は和紙の繊維に顔料を刷り込み、色を染み込ませていくことで作品が完成します。デジタルプリントが均一なのに対して、手刷りは吸った時と乾いた時で色みの具合が少しずつ異なります。人の手にかかることで一枚一枚に温かみが備わるのが木版画の魅力ですし、今回は木版画の落ち着いた色を出しつつ、それでいて鮮やかな作品になったと思います。

摺り上がりの見本の確認の様子。デジタルで制作した原案をもとに版画の色味の調整を行う。

ー鑑賞する人に伝えたいことはありますか?

平井:木版という表現の懐の深さを見ていただきたいです。人の手がかかった技術で制作されたものなので、隅から隅まで見ていただけたら嬉しいですね。

職人による技を体感して作家・京森が思うこと

ー浮世絵というプロジェクトも終盤に差し掛かってきましたが、彫師と摺師の技術を見てどうでしたか?

京森:職人さんの工房を訪れた際に、彫りと摺りを体験させてもらったのですが、当然のことながら、職人さんの技術は簡単に取得できるものではないなと感じました。そしてその技術やこだわりが今日まで脈々と受け継がれていることにも、感動を覚えました。

京森康平のサインが入った浮世絵

ー今回制作された浮世絵は台湾での展覧会でお披露目されます。来廊した人にどのように鑑賞してもらいたいですか?

京森:これまでもデジタル技術を用いて絵画を制作してきましたが、今回は同様にデジタルで制作した原案を版元にして木版画にする、という新しい試みに挑戦しました。自分自身でコントロールできないところで彫師や摺師の方の手技が入ることは、いつもの制作とは違った楽しみがあります。

複数の人の手を介した作品である部分を読み取ってもらえると嬉しいですし、私自身も会場で自分の浮世絵を見れることを楽しみしています。

完成した浮世絵は台湾で開催される『Impression -O-』展とオンラインにて販売予定。現代装飾家の京森康平と浮世絵を現代に伝える職人たちによるコラボレーションをお楽しみに。

展覧会詳細はこちら »

Photo by William Galopin and Whitestone gallery.

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