クレマン・ドゥニはコミュニケーションにおける障壁を研究し、モザイクや絵画等の多元的な作品をもって、芸術実践を人類が置かれている岐路に持ち込もうと試みるアーティストだ。彼の人類学に対する研究は、肖像画に派生し、人々を同じような混乱に誘う。事実、彼にとって個人的な経験を共有することは、作品を作ることにあたっての前提条件である。過去10年間で、ドゥニはつくり上げられた記憶について研究を重ねると同時に、絵画実践における意識の場所としての身体を探求してきた。時が経つにつれて、彼の作品は暗くて深い情景から、曲がりくねった線と明るくクリアな色合いを使ったより広大な作品へと変化していく。 2021年、コロナウイルスによるロックダウンにより、彼はノアールムーティエ島に行くことになり、そこで見たまるで予知夢のような夢から、「The River Song」シリーズを生み出すことになる。夢の中でドゥニの家や島は水に飲み込まれ、視界には木の頂や屋根だけが現れた。これがきっかけで彼は、気候変動の無慈悲さとその自然への影響、そしてその先にある災難に直面した人間の避けられない道について考えるようになる。「私が水の流れを描くのは、水が私たちを飲み込みうるからだ。」とクレマン・ドゥニは語る。
Contrasting Confluences
Group Exhibition : Hong Kong
2022.05.03
INTRODUCTION
ホワイトストーン・ギャラリー H Queen'sは、第30回ル・フレンチ・メイの共同プロジェクトとして、フランス人アーティストのクレマン・ドゥニとファビアン・ヴェルシェール、日本人アーティスの塩沢かれんによるグループ展「Contrasting Confluences」を開催する。本展示ではアクリル、油絵、水彩画の作品を展示している。抽象から具象までそのアプローチ方法は様々であるが、それぞれが絶妙に世界を見て、解釈し、表現しており、シンボルとアイデンティティの価値を探る。
ル・フレンチ・メイについて
ホワイトストーン・ギャラリーは第30回ル・フレンチ・メイの共同プロジェクトのグループ展に出展する。ル・フレンチ・メイへの参加は今回が初めて。1993年に始まったル・フレンチ・メイは、アジア最大の芸術祭の1つである。例年5月から6月にかけての約2か月にわたり、150以上のプログラムが開催され100万人以上が参加する、アートの街・香港を象徴するイベントとなっている。過去29年間、ル・フレンチ・メイは国際的な視点を持って、香港の歴史とアジアの世界都市としての位置付けに沿って、香港の地から魅力を発信している。
クレマン・ドゥニ
変幻自在な作品における形而上学的探求
ABOUT
1991年に生まれのクレマン・ドゥニは、セーヌ川のほとりの小さな村、ヴェトイユにあるモネの家に住み、制作を続けている。2018年にパリ国立高等美術学校(エコール・デ・ボザール)を卒業し、2019年にBVコレクターズアワードを受賞。その作品は2013年から数多くのショーに展示され、愛好家によって収集されている。\nフランスの現代アートシーンで最も勢いのある若手アーティストの1人であるクレマン・ドゥニは、コミュニケーションにおける障壁を研究し、モザイクや絵画等の多元的な作品をもって、芸術実践を人類が置かれている岐路に持ち込もうと試みる。
ファビアン・ヴェルシェール
インスピレーションとしての他者論
ファビアン・ヴェルシェールは幼い頃より、古代ギリシャの画家アペレスの「線を描かない日は1日たりともない」という格言に従ってきた。それにもかかわらず、ヴェルシェールが現実とする世界は、あまりにも神秘的であり、歴史の背後に隠されているようだ。彼は生まれながらに原因不明の病気を患い、15歳まで入院生活を送っていた。彼が人間の状態に焦点を当てた作品を作り、探求するのも自然なことである。 ヴェルシェールが語る物語は、決して現実と乖離しているわけではない。特に、生と死、美と排斥の対比を熱心に描いた。幻想と現実の間の宏闊な混沌の中で、彼はサーカスやおとぎ話、漫画、そして自らのファンタジーの世界を呼び起こし、縛りなき想像力が生み出した新種のモンスターやキメラを通して、現実に向き合うよう、私たちに呼びかける。ヴェルシェールは、水彩画、デッサン、絵画、インスタレーション、映像作品を好み、最近では木や陶器へのペイントを試みている。ヴェルシェールの作品を見た者はみな、美しい幻想と悪夢の間の世界に陥るだろう。困難の中にも慰めの源を探しながら、彼は恐れと放棄を養うものから美しいものを作り出しているのだ。
ABOUT
ファビアン・ヴェルシェールは、1975年にパリ東部のヴァル・ド・マルヌ県にあるヴァンセンヌで生まれ、ロバート・フレックの指導の下、パリ国立高等美術学校やナント美術学校でアートを学んだ。ほとんどを病院で過ごした辛い子供時代を経験したことから、芸術に強烈な情熱を注ぐようになる。このことは彼に、あらゆるおとぎ話の要素をまとめるような、自由な想像力をもたらしていく。ヴェルシェールが現実とする世界は、あまりにも神秘的であり、歴史の背後に隠されているようだ。
塩沢かれん
光を求めて
塩沢かれんは作品の中で、無限に広がる銀河を描き、遠く失われた記憶を表現する。コミュニケーション領域の拡大を常に追求し、木製のボードにアクリル、オイル、アルキド樹脂を媒介として、独創的で美しい光と影のレイヤーを持つ銀河を作り出す。 オランダで育った彼女の作品には、木製の風車、クラシカルなアーチ、教会の尖塔など、ヨーロッパの風景を構成する要素が多く取り込まれている。多様な大きさのツールを使って塗料を少しずつ削り落とし、幻想的でありながらリアルなシーンを表現する。展覧会の注目作品の一つである「Crystal Church(2022)」は、光のベールにつつまれた教会のような、ステンドグラスを通過した光が互いに重なり合う様子を描いている。それはまるで彼女の子供時代の思い出がガラスの宝箱から湧き上がるかのようだ。 「異なる人々の意識と意識、認識と認識をつなぐことで、現実の世界では見過ごされがちな人々の心の声を捉えられる作品を作りたいと思っている。」塩沢はそう語る。
ABOUT
1998年神奈川生まれ。東京造形大学の絵画専攻領域を卒業したのち、現在は同大学院を卒業している。油彩画をはじめとして、線画、映像制作、インスタレーションといった様々な表現で作品を発表。作品を媒介としたコミュニケーション領域の拡張を一貫して模索する。作品制作においては、幼少期の記憶や日々の生活のなかでの感覚を平面に落とし込むほか、視覚以外で認識する世界の表象をめざし、音や光、立体など五感に働きかける表現形態を開拓している。 東京造形大学在学時からギャラリーや美術館でのグループ展覧会を精力的に行い、2018年には 国立新美術館で開催された「アジア創造美術展2018」において最優秀造形賞を受賞。今後の更なる活躍が期待される日本の若手アーティストである。
Gallery Exhibition
Contasting Confluences
Group Exhibition: Hong Kong
2022.05.03 - 06.30
View Gallery Exhibition
グラフィティのテクニックを用いて、ヴェルシェールは、水彩画や神話的なエピグラムを使った不遜なシンボルを取り入れ再考し、彼の視覚的ボキャブラリーの一部であるトレードマークを作り上げている。いかなる見た目のものでも、ヴェルシェールは自分自身にも観客にも一切の配慮をしない。彼は幻覚を伴った、祝祭的な、もしくはパニックに陥った視線で世界を見ている。