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自己が向き合うリアルを照らす、触媒としての「黒」の自律性|武内雄大インタビュー

2024.03.26
INTERVIEW

武内雄大《doubt》2023, 73.0×91.0cm, パネル・カンバス・油彩

肉体が否応なく発する生命力を体現するかのように、大胆に踊る筆致とヴィヴィッドな色面。一瞬にして観る者を作者の内面世界へと引き込む武内雄大が、ホワイトストーンギャラリー銀座新館で初めての展示に挑む。2000年生まれの若き作家はなぜ今、「歳をとることへの畏れ」という人間誰しもが直面する普遍的心情を制作テーマとするのか? 強烈なインパクトを刻む実存的色彩はどのようにして生まれるのか? 作家にインタビューをおこなった。

The torrent in seconds―秒角の激流

ー作品制作におけるテーマとインスピレーションについて教えください。

武内:制作のテーマは「歳をとることへの畏れ」です。このテーマに至る背景には、私のセクシャリティが大きく関係しています。私はゲイなのですが、ゲイコミュニティで生活していると、しばしば年齢に関する様々な問題に直面します。例えばマッチングアプリにおけるルッキズムや “若さ” 至上主義、子供を授かれない故の老後の心配、など。結婚や法的制度の整っていない現段階の日本において、然るべきライフステージに “上がりたくても上がれない” 認識のまま年齢を重ねる感覚は、ヘテロの方々のそれとは少し違う気がします。私の絵は現段階では、このような現状から生まれる感情を吐露する場でもあります。

インスピレーションに関しては、私が今住んでいる埼玉と、母の実家があるフィリピンの風景から得ることも多いです。

作家アトリエにて

ー作品制作の際に最も重視している要素やアプローチは?

武内:絵によって重視する要素は変わりますが、一貫して構図を大切にしています。また油絵の場合は、油絵具がもつ物質的な美しさ、表情の豊かさを活かしつつ、描いている状況や光、モチーフを面白くみせることに注力しています。

武内雄大《doubt》2023, 73.0×91.0cm, パネル・カンバス・油彩

ー作品《doubt》はどんな作品ですか?

武内:小さい頃、私は雪が降ると大はしゃぎで外に出かけていました。空からこんなに冷たいものが降ってくるという事実や、手に掬い上げた瞬間じわっと溶けてしまうこと、手がジンジンすること。全ての現象が不思議で新鮮でした。

現在の私は、雪はなぜできるのか、なぜ空から降ってきて触ると溶けるのかを理屈として知ったし、手がジンジンしても「そりゃジンジンするだろ」くらいにしか思いません。そればかりか電車が遅延することや雪かきを強いられることを考えると、むしろ雪を鬱陶しく思うようになりました。

私たちは歳をとるにつれて事物の道理を知り、人間がこうだと決めた枠組みの中でしか世界を見れなくなります。そして個人の集まりである社会は、より私たちのものの見方を支配し、時に私たちの人生から豊かさを奪います。だけど、私は物事の道理や決められた枠組みを知らない状態には戻れないとしても、「疑う」ことはできると思います。

この作品を見た人にも、これは当たり前だ、こうあるべきだとされているものが、本当にそうなのかを問い直し、常に「疑う」ことを忘れずにものを見てほしい。そんな思いをこめて「doubt = 疑え」という題名をつけました。

ー創作活動において最も大きな挑戦は何ですか?

武内:創作活動をしながら、どうお金を稼いで健康的に生活し続けていくか、というごく基本的なことだったりします。

絵を描いていると、先の手を読み過ぎて筆を進めるのが億劫になったり、上手く描けるか不安になることがよくあるので、そういう時は「どうせ大した絵にはならないし、これからの人生で何千枚も描いていくうちのたった一枚に過ぎないから」と自分の中で一種の諦めをつけることで、その時々の自分のベストを尽くせている気がします。

武内雄大《bush》2022, 130.5×162.0cm, パネル・カンバス・油彩

ー武内さんの作品では「黒」という色がひときわ存在感を放ちます。武内さんにとって黒にはどんな意味がありますか?

武内:私が絵に登場させる「黒」は、私たちが生きる時空・時間軸とは別の時空・時間軸のイメージです。その内側で独自の時間の進み方をし、現象が起こり、事物が完結するような、“自律的” な黒。いわば黒はもうひとつの世界の凝縮体です。

別世界の凝縮体である黒を日常風景と構成することで、相対的に私たちが生きるこの時空・時間軸を捉え直そうとしています。ドラえもんのどこでもドアのように、黒を通じて、とある絵の場面から別の絵の場面に移動できるような、それぞれの瞬間を繋ぎ留める、共通項としての意味合いも見出すことができるようになってきました。

作家アトリエにて

「歳をとることへの畏れ」は、子供時代に回想される無垢な感受性(過去)、日常をひたすら積み重ねる実況感覚(現在)、社会も含めた他者への同調へ取り込まれていくことへの違和感の予想(未来)、といった異なる時空を貫く。ともすれば極めて主観的になりかねない世界を相対的に照らすのが、「黒の自律性」であり、その無窮の時間軸なのだ。どのような描写であっても若干の痛みを内包するのは、武内の制作姿勢そのものが生きることへ最短に直結しているに他ならない。

武内雄大と角谷紀章による二人展『The torrent in seconds―秒角の激流』は、ホワイトストーンギャラリー銀座新館で4月27日から5月25日まで開催。詳細は下記リンクよりご覧頂けます。

The torrent in seconds―秒角の激流

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