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月の下、蝶は音になって漂う:中村馨章インタビュー

2025.05.20
INTERVIEW

ホワイトストーンギャラリーシンガポールは、このたび「ストーリーキーパー:物語と伝統」を開催いたします。今展は、日本におけるストーリーテリングの永続的な影響を探る展覧会です。 現代美術を通じて、変容、霊性、アイデンティティというテーマを探求し、古代の物語に対する新しい解釈を提供します。

今回は、中村馨章の聴覚と視覚の世界をつなぐアートをご紹介します。 作家は繊細な蝶のシンボルを用いて、音と静寂の境界を探究し、観客をつながりや知覚、感情表現についての対話へ誘います。 中村の作品は、空間、音、アイデンティティの流動性について、アーティストの個人的な体験に深く根ざした深い瞑想を示しています。

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中村馨章 “沈黙の世界における蝶の声 - 4” 2024、60.8 x 50.0 cm、アクリル、キャンバス

ー「静かな世界の蝶の世界」と「音の世界の蝶の世界」の2つのシリーズを作った理由を説明していただけますか?

中村:私は、人々の間に存在する聴覚と視覚に関わる境界を探求したアートを表現しています。そしてどうしたら人々が相互理解を生み、他の人とつながるかを模索しています。そのため、この絵画では音の象徴として蝶を表現することにより、私のパーソナルな音体験がもたらした感動や問題意識を観客と共有したいと考えています(多様性と相互理解)。

音は蝶のように、沈黙世界と、音ある世界の間を漂いながら飛び交っています。沈黙の世界の中でさえ、音は振動に変わることにより、その境界線をやすやすと乗り越えていきます。

実は、私は2018年頃まで日本画では蝶を精霊や霊魂として表現していました。蝶は多くの文化では生と死の間を彷徨う魂や精神と関連付けられており、日本文化では死者の魂を運ぶと考えられています。私にとって、伝統的に表現されている魂や精神としての蝶(生死の間)は、音の音符となって漂う蝶(音ある世界と無音世界の間)と非常に似ており、いわば中間地帯を行き来する「渡し船」のように見えます。

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中村馨章 “音ある世界における蝶の声 - 3” 2024、60.8 x 50.0 cm、アクリル、キャンバス

ーあなたの作品では、ほとんど常に月が登場しています。月があなたの芸術の中でそれほど強いモチーフであることは、何か特別なつながりを感じているからでしょうか?

中村:月は日本文化において深い精神的な意味を持ち、無常と関連しています。私にとって、月明かりは暗い夜にそっと真実を示すものであり、また、月の光は太陽光からの間接的な反射であり、刻々と変化していくため、不確かな対話の比喩でもあります。

また禅の円は、伝統的に無限、空虚、宇宙、永遠を表す普遍的なシンボルです。すべてが円から生まれ、万物が互いにつながりあって境目はありません。私はこの円思想の考えの中に、人々とつながる新しい方法や思想を感じています。

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ー空間と音の対話を表現するにあたって、ピンクや赤以外の色を使う可能性はありますか?

中村:元々日本画で表現していた時には、普遍的な癒しとして青や緑で表現することが多かったです。もっと表現を深めようとした時に、痛みの記憶が強烈であったため赤を使うようになりました。

マンハッタンに一年間住んでいた時は、音が色彩に感じられたため一時的に多彩な表現をするようになりました。その時に心の痛みが和らぎ、生命感や自由の喜びも加わり、赤が和らいだピンクが音に結びついたのだと思います。これはオノマトペと似た共感覚(synesthesia)がもたらした効果だと思います。ヴォルグガング・ケーラーのブーバー・キキ効果が参考になるかもしれません。

また、自然、神仏、アニメなどの文化的なアイコンから表現していくのではなく、コンセプトやメッセージに応じて表現しています。そのため、ピンクや赤が好きなのではなく、いかに主観的な感覚や感情を伝えるかを工夫をしています。

また、無音世界を表現する時は、光への反応が強いためモノトーン(赤も含む)、音ある世界では色彩に反応しやすいのでピンクで表現してきました。したがって、かならずしも赤とピンクでなければならないわけではなく、発表する場や住む国が変われば表現も変化していくはずです。

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ホワイトストーンギャラリーシンガポール

「ストーリーキーパー:物語と伝統」は、中村馨章の蝶のシンボルを力強く活用することで、音と沈黙、そして個人的な経験の交わりを探求することをお勧めします。 この展覧会は、現代的な視点で古代の伝統を再び想像し、変革とつながりというテーマを通して、深く感情的な旅を提供します。

ホワイトストーンギャラリーで、アートが過去と現在をつなぐ方法を体験し、アイデンティティとスピリチュアルさの魅力的な探求に没頭しましょう。 これらの考えさせられる作品に出会うためのユニークな機会をお見逃しなく。



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