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名もなき存在に光を灯す:安藤しづかインタビュー
2025.11.19
INTERVIEW
ホワイトストーンギャラリー銀座新館では、新進気鋭のアーティストたちによる『Dimensions IV - art is』を開催する。
今回、参加アーティストたち3名の内なる世界に迫るべく、インタビューを実施。アートに対する考え方、それを具現化させるためのメディウムへの向き合い方、創作における原点などを尋ねた。三者三様のまなざしが交差する言葉から、その奥行きを感じてほしい。
ー今回の展示の制作テーマや、メインビジュアルの作品について教えてください
安藤:今回の展示では、『灯幻館』というオリジナル小説をもとに絵を描いています。記憶を失った少女が、古い劇場で“誰か”を演じるうちに、自分という存在を少しずつ思い出していく物語です。私たちは日々、他人の期待や関係性の中で、さまざまな“自分”を演じながら生きています。演じること自体がアイデンティティをつくっていく、という視点を、絵と文章の両方で表現しています。
メインビジュアルは、劇場にひっそりと存在する妖精たちをイメージして描きました。誰かに見つけられなくても、確かにそこにいる。そんな名もなき存在へのまなざしを込めています。
ーアーティストとしての自分の強みは何ですか?
安藤:自分の内側にある名前のない感情や、曖昧な気持ちと丁寧に向き合い、それらを目に見えるかたちにするための実験を重ねてきました。曖昧であっても、名付けられなくても、そこに存在していい、という視点を作品を通して差し出せることが、私の強みです。
安藤しづか “今から私は IV”、2025年、41.0cm×31.8cm、高知麻紙、墨、水干、岩絵具、典具帖紙
ー創作における原点、きっかけとなった出来事はありますか?
安藤:原点には、自分の出生があるのだと思います。私は日本人の母と中国系アメリカ人の父のもとで育ちました。どのコミュニティにいても、自分には外の要素があり、周りからもそういった目で見られていました。けれどその経験が、「複数の視点を同時に持つ」感覚につながり、今の作品に通じる「傍観者的な視点」が育まれていったのだと思います。
ー今の表現方法に辿りついた経緯、メディウムへのこだわりを教えてください
安藤:夢や無意識への興味から、最初はシュルレアリスムに惹かれていました。その世界を自分なりに表現しようとする中で出合ったのが、日本画の素材です。岩絵具や典具帖紙は、素材そのものに強い存在感があり、扱い方によっては粗さも繊細さも生まれます。その不安定さが、私が描きたい人物像にちょうどよかった。今では、素材そのものが作品の世界観の一部であり、共演者のような存在だと感じています。
ー顔のぼかしと、全体の余白が鑑賞者の想像力を高めるように感じます。どういうことを考えながら制作してますか?
安藤:顔をぼかすのは、「特定の誰か」を描くのではなく「誰かはわからないけれど、確かに存在する」ものを表現したかったからです。見る人の中にある感情や記憶と重なり合うような、ゆとりを残したいと考えました。
また、空間の余白には沈黙や間のような気配を感じていて、古典の日本画における空間の取り方からも影響を受けています。
安藤しづか “私を照らせ” 2025年、60.6cm×50.0cm、高知麻紙、墨、水干、岩絵具、典具帖紙
ー影響を受けた人物や作品はありますか?
安藤:影響を受けた作品はたくさんありますが、特に映画からの影響が大きいと感じています。たとえば『夢』『田園に死す』『ミツバチのささやき』など、昔観た映画が、断片的に今も自分の中に残っています。どれも現実と幻想が溶け合うような表現が印象的で惹かれました。ひとつの出来事や人物の裏に、もっと複雑で、言葉にできない感情が潜んでいます。そうした目に見えない部分の存在感を、自分も絵で描きたいと思うようになりました。
ー今後の展望や夢をお聞かせください
安藤:絵を描くことは、これからも変わらず私の軸であり続けると思います。いずれは絵画という枠を越えて、物語や空間全体を使った表現にも広げていきたい気持ちがあります。
たとえば、絵本や舞台作品、映像作品の制作に携わるなど、観る人がその世界の中に入り込むような体験をつくる。より立体的な世界観の提示を目指していきたいです。「画家」から、「表現者」へと進化することが、今の私の夢です。
安藤しづか “呼吸をあわせて III” 2025年、60.6cm×50.0cm、高知麻紙、墨、水干、岩絵具、典具帖紙
名もなき感情や曖昧な気配に静かに耳を澄ませ、その存在をすくい上げるように描き続ける安藤しづか。見る人によって、それぞれの記憶が重なる体験が待っているかもしれない。