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無意味で満たされたこの素晴らしい世界|What's the point? By Sebastian Chaumeton

2023.04.13
INTERVIEW

セバスチャン・ショームトン

ロンドン在住のアーティスト、セバスチャン・ショームトンによる日本初個展がホワイトストーンギャラリー銀座新館で開催される。陶芸、絵画、ビデオ・インスタレーションなど、さまざまなメディアを用いて作品を発表してきたショームトン。人間の本質的な性質とインターネットという膨大な情報プラットフォームとの関係を作品に落とし込んだ展覧会『What's the point?』(そんなことして何の意味がある?)について、アーティストにインタビューを敢行した。

絵画という視覚言語とインターネット

現代社会における情報やイメージの氾濫をめぐる問題を取り上げ、これまでにもテクノロジーの急速な進歩がもたらす倦怠感を表現してきたショームトンが、次に目指したのは、絵画を通してインターネットにおける視覚言語を探求することだった。

今展の作品には漫画、アニメ、ゲーム、映画に登場する存在たちがモチーフとして数多く登場する。美術史と現代文化に挟まれたミーム絵画は、情報が氾濫するインターネット時代を反映した現代の静物画と言える。

ー今展『What's the point?』で表現したいことは何ですか?

ショームトン:画像や情報が飽和状態にあるワールドワイドウェブを反映した、意味のないショーを作りたいと思いました。一見無関係に見える題材や事柄をキャンバス上に切り貼りして、そこに鑑賞者が新しい意味を作り出せるようにしています。鑑賞者は私が提示した点と点を結びつけ、同時にまた、彼らが知っているかどうかさえもわからない参照点から洞察を導き出すのです。

セバスチャン・ショームトン《What's The Point?》2023, 152.5 x 152.5 x 4 cm, アクリル・キャンバス

ー「鑑賞者が新しい意味を作り出せるように」ということですが、具体的にどういうことですか?

ショームトン:いくつかの絵画作品は美術史を参照しています。例えば《What's The Point?》は、アンリ・マティスの《ダンス》と、1960年代後半のノスタルジックなスパイダーマンのミームを合体させた作品です。この展覧会では、インターネットという底の見えない大きな穴のように、意味がないことということを提示したい。そのために、最初の構成段階において、これら2つの要素を組みあわせました。スパイダーマンを主人公にしたインターネットミームでは多くのウェブスリンガーが円になってお互いを指差しています。ショーのタイトルを考えているときに頭に浮かんだ、今展を象徴する作品です。

タッチ、タッチ、タッチ、キャンバスをタッチ!

ー今展に出展される作品はこれまでのペインティングとは作風が大きく異なりますね。

ショームトン:フィンガーペインティングという非常に手間のかかる手法を取り入れました。絵の具を指で直接キャンバスに押しつけるという方法です。デジタル美学と対比させるだけでなく、タッチスクリーンを操作するときに使う、あまりにも身近な動作を絵画制作に取り入れるためです。ピクセル化された画像をレンダリングするように、色のドットを物理的に押し込むことで、形を作ることができるのです。

ー作品の主題にする対象はどのように選んでいますか?

ショームトン:参考にするものは主にインターネット文化から選んでいます。グローバルでデジタルな空間であるインターネットの中で、東洋と西洋のポップカルチャーがどのように入り混じっているのかを考えながら選ぶことが多いですね。

とはいえ、選びとる対象やキャラクターは、ネット上のイメージに対して私が無意識に抱いている偏見と嗜好に深く結びついていると思います。ジブリ作品は子供時代に慣れ親しんだアニメなので、作品にも多く登場します。

ショームトンにとっての制作とダンス

芸術と現代社会をふんだんな遊び心で風刺する作品と、媒体を選ばない表現方法を特徴とする作家。ロンドン芸術大学チェルシー・カレッジ・オブ・アートで美術の学士号を取得したのち、世界各地で展覧会を開催している。

ーアーティストになろうと思ったきっかけは何ですか?

ショームトン:「アーティストになりたい」という具体的な光明が見えたことはありません。だけど、幼い頃はいつも絵を書いていたました。協力的な家族のおかげでアート制作に関する自信を築くことができて、今のキャリアを切り拓くことができました。アーティストになった理由は色々と挙げられるでしょうが、詰まるところ、私は単純に作品を作ることが大好きなのです。自分の仕事に「アーティスト」という名前がついていることをとても幸運なことだと思っています。

ー制作時の決まりやルーティンワークはありますか?

ショームトン:創作活動に関しては、私は習慣の生き物です。一貫性が鍵となります。普段は週6日、10時~19時で仕事をして、調子に乗ると延長することもしばしば。新作に取り掛かる前には、スタジオを必ずきれいにしなければなりません。きれいなスタジオは私の頭の中の雑念を一掃し、たくさんのアイデアが邪魔されることなく自由に出入りできるようにしてくれるのです。

もうひとつのルールは「遊び」です。遊びは新しい技術やコンセプトを発見するために重要な要素です。私はよく「遊び」の周りに境界線を作り、それを跳ね返したり、時には壊したりしています。午後のダンス休憩は、夜の仕事に向けて自分を解き放つのに役立ちますし。言うまでもなく、1日に数杯のコーヒーは欠かせません。

ペインティングの様子。パレットナイフにつけた絵の具を指でタップするように、直にキャンバスに塗りつけていく。

新しいメディウムで遊ぶ

ロンドンを拠点に活動しているということもあり、作家の主戦場はイギリスだが、2021年にはアジアでの初個展(『Little Movements』台北)を果たし、この度日本での初個展に繋がった。

ー今回は日本での初めての個展ですね。ショームトン氏にとって日本で個展をする意義とは?

ショームトン:東京は私にとってとても特別な場所で、まさに今回の展覧会を開催する場所で幸栄さん(ホワイトストーンギャラリーCEO)にお会いしたんです。その出会いから、ホワイトストーンギャラリーでいくつかの展覧会やアートフェアに参加させてもらっています。

今回、ホワイトストーンのウィンドウに自分の作品が飾られているのを想像していたのが、実際に展示されている様子を自分の目で見ることができて、とても感傷的な気分に浸っています。また、日本には歴史的にも現在も芸術を取り巻く素晴らしい文化があります。その中で仕事ができるのを非常に楽しみにしています。

ー最後に今後の活動についてお聞かせください。

ショームトン:今回の展覧会のために用いたフィンガーペインティングという技法は、多くの可能性を秘めた方法です。特に、デジタル的な美学と、色の見え方に関して可能性を感じています。ドットというピクセレーション的な性質は非常に広大な作品に適しているので、もっと大きな作品も作ってみたい! 引き続きセラミック作品も作りたいし、動く彫刻の限界にも挑戦してみたいですね。

見知ったキャラクターがいつもとは違う姿でこちらを見つめてくる様は、私たちが世界に何を求めているのかについて、大きな混乱をもたらす。究極のことを言えば、現代社会に氾濫する情報やイメージを知っていてもいなくても、生きるという行為自体にさしたる影響はない。しかしながら、私たちは荒れ狂うインターネットの海に自ら飛び込み、泳がずにはいられないのだ。

魅惑のインターネットについて新たな側面を見せてくれるショームトン『What's the point?』は4月14日から5月6日まで開催。ホワイトストーンギャラリー銀座新館とオンライン展示でご閲覧あれ。

展覧会詳細はこちら »

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