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曲線のうねり、変化の証明: MADARA MANJIインタビュー

2025.05.12
INTERVIEW

今年は下瀬美術館での展示など、精力的な活動を続けるMADARA MANJI。新作はこれまでの直線的なキューブから、柔らかな曲線を描く壁掛け作品へと変貌した。今回の新作である「touch」シリーズのコンセプトから、どういった制作過程で作られるかまで、作家本人に尋ねた。

「壁」から世界を作っていく

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ホワイトストーンギャラリー銀座新館

「touch」シリーズはアルミ合金のパーツと木目金の曲面の合金が組み合わさった作品だ。これまで立方体の作品から始まり、立体作品がメインだったMADARA MANJI。どうして壁掛けの形にしようとしたのだろう。

「壁に興味が出てきたんです」とMANJIは言う。以前のアトリエに住んでいた時、娯楽もお金もなく、よくやっていたのが「壁を眺めること」だった。現在のアトリエよりも無機質で、シミやヒビ、日焼けなどがあり、圧迫感が強く、人によっては不快感の強い空間だったと思い返す。

「壁の質感が変わると、そこの世界観も変わるじゃないですか?」とMANJIは問う。

「その『壁』というところに『作品』があることによって、世界を作るというか、自分の世界観が作品として介入できるということにすごく興味を持ち始めたんです。アートってやっぱり平面のものが多いイメージもありますが、自分の作品では今までなかったので、新たにやってみるか、と思いました」

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ホワイトストーンギャラリー銀座新館

昨年、志賀高原ロマン美術館で開催した個展にて行ったインスタレーションからも影響を受けている。世界的な建築家である黒川紀章が設計した美術館で、MANJIはこれまでにない体験をした。

「今までやったことないインスタレーションをやったんですけど、なぜその時刻、その場所に、その作品が存在するかがすごく大事になってくる。そこに絡んでくるのって、その土地や建築ですね。建築物と絡めた時に、壁の存在が大きいことに気がつきました」

変化から生まれる膨らみ

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ホワイトストーンギャラリー銀座新館

今回の「touch」シリーズのもう一つの特徴は、木目金で制作した金属が曲面を描く造形である。MANJI曰く「いろんなことに触れる」このシリーズでは、背景に人の関わりや、そこから生まれる変化を表したという。

「自分はずっと長いこと1人で作品制作をしてたんですが、ここ最近はチームでやるようになって、ああだこうだ言いながら作ってるんですよ。そうすると1人では出なかった発想とか、出来なかった作業とかがみんなとならできるようになっていて、変化が起きるじゃないですか」

MANJIは個人を「点」、その交わりを「線」、そして「面」とたとえて語る。

「点と点を結ぶと直線しか作れないけど、この点の数が多く並んだ時に、直線ではない線が作られると思ったんです。やっぱりそれに対して大事なのは人と自分以外の他者、あとその他者と共有できる空間があってこそ、自分の中でも何かが膨らんでいく感覚がありました。要はアトリエがあってみんながいるからこれができる、みたいな。それ以外にも、人と交わることで因果関係の係数が増えていくと、曲面的な広がりや、膨張を感じるようなイメージになり、そのシェイプラインの彫刻作品を作りたかったんです」

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ホワイトストーンギャラリー銀座新館

その膨らみが具体的な形になったのが今回のシリーズである。一方で、この曲面が表しているのはポジティブな体験ばかりではない。

「僕の作品はポジティブ一辺倒ではなく、なんならその要素は薄い。ネガティブな要素も含むんです」

例えば『直線ではいられない』とか、限界寸前な様子なども表しているという。それらはストレスや、テンションが強くかかってる状態から出てきたものである。

「世界が広がってくといいこともあるし、そうでないこともある。変化もそうですよね。いい変化もあるけど、寂しい変化とかも絶対起きる。良くも悪くも起きてしまう変化や、どんどん膨らんでいってしまうことの楽しさと難しさみたいなものを総じてどう捉えるか?と考えた時に、それこそが人間のとても美しい性質の1つだと思います。それらを反映した見た目のかっこいい作品を作りたいなと思います」

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ホワイトストーンギャラリー銀座新館

この「touch」シリーズは禅思想からも影響を受けているという。

「禅に『一即多、多即一』という言葉がありますが、おおまかに言ってしまうと、この世は全て相対関係の中での出来事、だから因果関係として繋がっています。要は自分以外の世界があるからこそ、自分を認識できるということです。壁に注目しているのもこの考えと通じるものがありますね」

今回の「touch」シリーズにも、下瀬美術館で行っている展示にも、この考えが反映されているという。下瀬美術館では巨大なインスタレーションなども行っているが、同じテーマで異なるアプローチをしているのが、今回の試みだ。

「世界がそのまま入り込んできて、それが自分となっていくから、いろんな世界に触れれば触れるほど自分も拡大されていく。『touch』で何に触れたいかというと、世界の輪郭線に触れてみたいですね」

叩き続けて生まれる三次曲面

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ホワイトストーンギャラリー銀座新館

実際に曲面として金属を制作することに関して、MANJIは「これまでにないほど叩き続けた作品」だと明言する。以前のインタビューでも制作工程を解説していたが、今回新たに曲面化するにあたり、そのプロセスを訊いた。

「今まで木目金という金属を使った平面的なものを作っていたんですけど、今回は曲面、それも一方向じゃなくて、三次曲面という、三方向にアール*がついてる曲面を作っています。曲面を金属で作るのは難しいんですが、『鍛金』という金属の板を立体物にする技法で作っています」

金属の伝統工芸の技術には「鍛金」「鋳金」「彫金」の3つが存在する。元々MANJIは鍛金の技術で木目金を作り、その後に彫ったり加工したりして装飾を後から施す彫金の技法を応用して立体物を作っていた。今回は、木目金の板を作った後に、更に細かく叩いて曲面を形成する。

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アトリエにて

「木目金の板を叩き潰して 1 枚の板を作るんです。この板をアールのついた台のところに当てて、ひたすらずらしたりしながら叩き続けるんですよ。細かく何回も。これをずっと繰り返していくと、どんどん形が綺麗なアールになっていくという古くからの技法を使いました」

以前、彫金職人に師事していた頃に学んだ技術だ。手法としてはシンプルだが、繊細さと根気が必要になる作業だ。これまでの作品では材料を作る過程でダイナミックに金槌を振るっていたが、今回は木目金を作った後に、造形を作る工程でも更に叩く必要がある。

「金槌を優しく、鋭く早く打っていくような感じで叩きます。これがちょっと狂っていくと、ラインが崩れていったり、重心が寄ってしまう。すごく細かく難しく、繊細な叩き方を始めました」

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木目金の板を叩いて少しずつアールをつけていく

そんな気の遠くなるほど叩き続けた末に生まれたのが、この「touch」シリーズだ。この木目金の曲面の板を、アルミ板のボディパーツにはめ込むことで完成となる。それは、作家としての挑戦を表している。

「常に新しいものを見せ続けたい。そのために、これまでを突破する何かを常に模索しています。そこで見つけた表現が曲線です。テンションが強くかかってる状態から出てきた新しいものとして、分かりやすくするために、無機質で均一に見えるアルミのパーツをつけました」

押しつけることで膨らんでいく、つまり今回の展示会のタイトルである「PRESSURE(プレッシャー)」、つまり圧力がかかる形が具現化された作品が誕生した。

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アトリエに並ぶ木目金の板

人と触れることによって生まれる認識から、変化が新たな反応を産み出す。作家が変化することによって、作品も新たな形へと変化する。MADARA MANJIの産み出す変化は、うねる曲面となって表れた。これからも、新たな進化を見せてくれるに違いない。

彼の新作に加えて、これまでの作品も、ホワイトストーンギャラリーのオンラインエキシビションでご覧いただけます。


*コーナー部などの丸みがある部分の半径、丸み。アールをつけると言うのは意図的に曲面を形成すること

MADARA MANJI: PRESSURE

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