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小松美羽×GLAY・TERUトークセッション:函館が織り成す創造の時間
2025.10.21
INTERVIEW
現代アーティスト・小松美羽とロックバンドGLAYのボーカリストで画家・TERU氏。表現の領域は違えど、共に時代を代表するクリエイターである二人が、北海道・函館の地で邂逅した。
現在、北海道立函館美術館で開催中の展覧会「祈り 宿る Sacred Nexus: Resonating with Cosmos」に合わせて行われた特別トークセッション。二人の出会いから始まり、作品に込められた深遠な哲学、土地が創作に与える影響、そして未来への展望まで、そのエッセンスをテーマごとに紐解いていく。
表現者として共鳴する二人:音声ガイド制作秘話
函館美術館展示風景
二人の出会いは、共通の知人を介してだった。小松は当初、「GLAYのTERUさんに会いに行くと思うとより緊張しちゃうので、『画家のTERUさん』に会いに行くぞというような気持ちで」臨んだと明かした。TERU氏の打ち合わせの場に誰よりも早く到着し、アートの現場を深く学ぼうとする真摯な姿勢に、小松はすぐに引き込まれたという。TERU氏は「せっかちなだけ」と謙虚な姿勢のまま微笑んでいた。
TERU氏
今回の展覧会で音声ガイドを務めたTERU氏。その取り組みにおいても、非常に研究熱心だった。元々歌以外の声の仕事もしたいと熱望していた彼は、オファーを受けてから4件もの美術館を巡り、どんなトーンが良いかを自ら研究。収録は函館にある自身のスタジオで行われ、GLAYのレコーディングと同じ環境で録音された。まさに「メイドイン北海道」の音声ガイドが誕生した。
また、TERU氏が札幌の展覧会で、自身の音声ガイドをお金を払って借りたという、彼の誠実さが伺えるエピソードも披露された。
海と山のエレメントが混ざり合う特別な場所、函館
小松美羽
小松にとって、函館は特別なインスピレーションを与える場所だという。「海と山のエレメントが多く、優しく混ざり合う空間はなかなかない」と、その独特の調和が取れた自然環境を称賛する。また、海と山が近く、その真ん中をぶった斬るように、人間の生活環境があり混ざり合う場所だからこそ、アーティストに多大な影響を与えることを示唆した。
函館出身のTERU氏もまた、故郷が創作に与える影響の大きさを語る。函館にスタジオを作ったことにより、東京でのストイックな音楽制作とは対照的な、ゆったりとした時間の流れの中で落ち着いて音楽を作ることができるのだそう。「見える情報がやっぱり違うんですよね。東京だとビルなど灰色の建造物ですけども、函館はもう青と緑。入ってくる情報によって心が癒される」と、その魅力を語った。
土地に呼ばれて描く
函館美術館展示風景
「土地って呼ばれないと来れないといつも思ってるんですね」
小松は自身の活動と土地との深い関係性についてこう語る。今回の北海道での展覧会も、まさに運命的な縁に導かれたものだった。
展覧会の話が来るおよそ3ヶ月前、小松はプライベートでアイヌの人々が主催する絶滅種鎮魂祭に参加していた。そこでエゾオオカミが絶滅に至るまでの話に触れ、強く感じるものがあった。「きっとこれは、北海道でいつか作品を展示する機会があるんじゃないか」。そう直感したわずか3ヶ月後に、札幌と函館での展覧会の話が舞い込んた。そうして北海道にちなんだ作品として、エゾオオカミをモチーフにしたシリーズが誕生した。
自我を捨て、土地のエネルギーを受け取り生まれる
札幌芸術の森にてライブペインティング直前の様子
小松のライブペインティングにおいても、土地の影響は計り知れない。「土地と繋がって、その土地に感謝して、深い瞑想状態になるような状態で描く」と語るように、「自我というものをできるだけ捨てていかないといけない」と言う。そうして集中を高めると、「ミニシアターみたいなものが現れて、そこに勝手に流れてくるものを出していく」のだという。
これに対し、TERU氏も「頭の中に流れてくるメロディーをいかに具現化するか」と、自身の音楽制作との共通点に深く共感を示した。札幌で行われたライブペインティングにはTERU氏も足を運んでおり、表現の形は違えど、見えない何かを受け取り、世界に顕現させるという点で、二人の創作は響き合う点がある。
黒曜石が結ぶ時代と場所
黒曜石を用いた作品
黒曜石を用いたインスタレーションの作品もまた、土地と密接に結びついており、尚且つ小松の制作理念である「Great Harmonization(大調和)」が色濃く反映されている。
第二次世界大戦後、世界は物質的な豊かさを追求する「大加速時代(グレートアクセラレーション)」に突入した。しかし、小松は「これからは物質にとらわれるのではなく、もっと精神的な部分を大切にしていかなければいけない」と語り、「Great Harmonization」の時代への移行を提唱する。
その思想を体現するのが、北海道遠軽町と長野県星糞峠の黒曜石を使った作品である。考古学者の話によると、この二つの土地は旧石器・縄文時代に黒曜石の交易で繋がっていたという。黒曜石は鋭利な刃物として高い殺傷能力を持つが、縄文時代には大きな戦争の痕跡が見られないことから、人々はそれを争いの道具としてではなく、生活を守り、平和的な物々交換を行うためのネットワークとして正しく使っていたのではないか、と小松は考えた。
それはまるで、「インターネットみたいなもの」だと小松は言う。人を助けることもあれば、傷つける凶器にもなりうるツール。縄文時代の人々ができていた調和のとれた使い方が、なぜ現代の私たちにはできなくなってしまったのか。鑑賞者に静かな、しかし根源的な問いを投げかける。
函館美術館展示風景
土地と人とアートの調和が、未来を拓く
トークセッションの様子
故郷・函館への深い愛情を持つTERU氏は今、この街をアートで盛り上げるための大きな構想を抱いている。それは、3年後の芸術祭「トリエンナーレ」の開催である。驚くべきは、その実現に向けた彼の行動力。大学や博物館など、関係各所に自ら足を運び、直接交渉を行っている。その情熱的で献身的な姿勢は多くの人を惹きつけ、小松も「こういうアートに対し熱量のある人たちと一緒に仕事ができることは、全て偶然ではなく繋がっている」と、その渦に自ら飛び込んでいきたいと語った。
函館から世界へ。二人のアーティストが見据える未来は、この土地の可能性と固く結びついている。
「アートって人に見られたり、その人が対話することによって変わってく」。小松の言葉は、作品が美術館という空間を超え、街や人々と関わることで無限の可能性を拓いていくことを示唆している。
函館美術館展示風景
土地のエネルギーを一身に受け止める小松美羽と、その土地を愛し、未来を育もうとするTERU氏。二人の邂逅は、函館の地に新たな創造の種を蒔いたのではないか。土地と人とアートが美しく調和し、豊かな実を結ぶ日は近い。