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明瞭さと曖昧さが交錯するリアル|角谷紀章インタビュー

2024.03.26
INTERVIEW

角谷紀章《Frosted Window #79》2024, 130.3×162.0cm, カンバス・アクリル

視線を遮るように、明快なパノラマのうえに突如あらわれる淡い隈取り。明瞭さと曖昧さを共存させる独自の表現で注目される角谷紀章が、ホワイトストーンギャラリー銀座新館で初めての展示をおこなう。「リアリティとは何か、それはどこにあるのか」という問いに端を発した試みが辿り着いた先とは? 制作についてインタビューをおこなった。

The torrent in seconds―秒角の激流

ー作品制作におけるテーマとインスピレーションについて教えください。

角谷:誰しもがリアリティを感じられるような作品を作りたい、という思いから制作を始めました。景色を見えづらく表現することで、観る人に解釈を委ねる手法へと至りました。フィルターがかかったような景色が、記憶や観念によって補完され、観る人が観たい景色になってくれればいい。

ボケた景色を描写している「Frosted Window」や「Curtain」シリーズでは、タイトルにもある通り、ガラス窓の見え方に着想を得ています。不明瞭な部分は実際のすりガラスを描いているのではなく、観ることを妨げる “ノイズ” です。私にとってノイズは、作品と観る人、そして私自身を繋ぐ媒体であるとともに、互いに侵食し合わないための防護壁のような存在です。

作家アトリエにて

ー作品制作の際に最も重視している要素やアプローチは?

角谷:偶然性、そして作品に向き合う時間そのものを大切にしています。

私はスマートフォンで撮ったスナップ写真をモチーフにしています。描くことを目的として構図や題材を選んだものではなく、日常の中でただ慣習的に記録として撮影したものです。毎日撮り溜めた写真を見返した時に、なぜ撮ったのか分からないような、撮影した時の記憶が曖昧なものを使っています。

選んだ写真をもとに、滲んだ部分を描き、絵の具の滲みによって生まれる表情に合わせて、精細な部分を描き、繋げています。偶然生まれる滲んだ表情は流動的で、作品に向き合う時間のなかで見え方が変化することも多々あるので、作品の中で一つの世界を作ることを意識しています。

角谷紀章《Frosted Window #79》2024, 130.3×162.0cm, カンバス・アクリル

ー展覧会のキービジュアル《Frosted Window #79》に込めた想いを教えてください。

角谷:《Frosted Window #79》を含めた今回出展する作品について、作品への思いという点では均一です。これらのシリーズは元より観る人に解釈を委ねているので、その人なりの景色を受け入れてもらえれば、それ以上はありません。

この作品をメインにした理由があるとすれば、山や空は誰しもが必ず一度は見たことがある景色だということです。景色を描くときは、観る人が受け入れやすい普遍性というものを意識しています。今回初めて私の作品を観て下さる方も多いと思うので、特にこの点を重視しました。

ー創作活動において最も大きな挑戦は何ですか?

角谷:日本画から現在の作風へと、大学在学時に変えたことでしょうか。自分の作品を言語化していく博士過程の中で、「“リアリティ” とは何か、どこにあるのだろうか」と葛藤することがありました。それに対する一つの答えとして「Frosted Window」シリーズが生まれたんです。思いついたらすぐに試作という試行錯誤を繰り返し、結果的に失敗だったと思った試作が現在の作風へと繋がりました。

作家アトリエにて

ー「Frosted Window」や「Curtain」シリーズはどのように制作するのですか?

角谷:綿布に水を含ませて、絵の具を滲ませるように置きながら描いていきます。日本語で「すりガラス窓」や「カーテン」と題していますが、これは「ノイズ」の形や機能の見立てです。2つのシリーズでは、ノイズの範囲が異なります。

「Frosted Window」では画面の中央部分、絵画における主題が隠され、ノイズを通して絵画世界に入っていくようなイメージをもって制作しています。対して「Curtain」では、絵画世界の登場物は見えるけれど、その周りが隠されている。ノイズを通してキャンバスの外側にまで世界が繋がっていくような広がりを意識しています。

作家アトリエにて

焦点のブレたスナップ、黄昏時に浮かび上がるシルエット、霧のなかに霞む風景―それらの情景は曖昧さをまとうからこそ、観る者の知覚を刺激し、その余白はそれぞれの心情や経験を投影する格好の受け皿となる。日々の移ろいのなかで無意識に目を向けるありふれた景色、ふと想いだす忘れかけていた出来事。角谷紀章の作品に登場する「ノイズ」とは、他者との境界であると同時に、自己の奥底に眠る記憶を照らす光源である。

角谷紀章と武内雄大による二人展『The torrent in seconds―秒角の激流』は、ホワイトストーンギャラリー銀座新館で4月27日から5月25日まで開催。詳細は下記リンクよりご覧頂けます。

The torrent in seconds―秒角の激流

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