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隈研吾が語る「地形」と「建築」の融合:展覧会レポート
2024.12.20
ART × ARCHITECTURE
現在、軽井沢ニューアートミュージアムでは大規模展覧会『隈研吾:ランドスケープアーキテクチャー 丘・山・森・洞窟』が開催中。建築家の隈研吾がこれまで手がけてきた建築を「丘」「山」「森」「洞窟」という自然風景に分類し、代表的な作品を模型や写真、図面、映像などを通して多角的に触れられる展示となっている。
アートと建築の可能性を探る「ART × ARCHITECTURE」シリーズの一環として、展覧会の見所や、11月23日に開催された講演会の様子をお伝えする。隈研吾氏本人より、特別コメントも掲載。
「建築を消したい」ヒントは自然の風景から
軽井沢ニューアートミュージアム
隈研吾氏は「建築を消したい」という考えを持ってキャリアをスタートさせた。先人たちの建築という「形」をテーマとして見せてきた歴史とは異なるアプローチである。そのヒントとなったのが風景や自然であり、地形だった。いかに建築物が自然の中に溶け込み、風景の一部になっていくのか。その試みを紐解く手助けとなるのが今回の展覧会となる。
軽井沢ニューアートミュージアム
第1・2展示室では「丘・山」のセクションが紹介されている。丘の上から見下ろしたり、崖や山を見上げたりと、外から見て特徴的な建築作品にフォーカスした展示が行われている。スコットランドのヴィクトリア&アルバート・ミュージアム ダンディや、東京科学大学Hisao & Hiroko TAKI PLAZAの模型などが展示されている。模型を見ると、地形と建物がいかに共存しているかが分かりやすい。
軽井沢ニューアートミュージアム
軽井沢ニューアートミュージアム
第3・4展示室は、「森・洞窟」セクションである。建物の内部に入っていくものにフォーカスした建築作品を展示している。洞窟のような形の茶室や、建築内部を探検したり特別な内装などを体験できるような資料や模型などが展示されている。村上春樹ライブラリー、ホワイトストーンギャラリー台北や、ホワイトストーン・ギャラリー北京 798なども紹介されている。
「森」セクションは、森と建物が同化しているような建築がある他に、実際に木材で作られた作品が展示されている。
話題になった国立競技場の模型も展示されている。椅子がモザイク状になっており、森の中で葉っぱが観客席に落ちている様子をイメージして作られた。
「洞窟」セクションでは、壁が黒くなっており、他のセクションより「内部へ入る」感覚が体験出来る。移動式の茶室の模型など、目を引く展示も多い。
軽井沢ニューアートミュージアム
第5展示室では、家具や家電などもプロデュースしている隈研吾氏の作品が展示されている。話題となったSHARPの空気清浄機なども。椅子は実際に座ってみることができるため、見るだけでなくインタラクティブな体験も可能。他にも、バーチャル空間を体験出来るブースもある。
隈研吾氏本人による解説を堪能
講演を行う隈研吾氏
11月23日は展覧会のオープニング記念として講演会が行われた。今回展示されている建築に関する写真を提示しながら、建築のコンセプトや当時のエピソードなどを隈研吾氏本人が解説した。雑誌などのメディアには使われない、建物から眺めた風景の写真なども「お気に入り」として紹介。こういった展示会では建築物自体に注目されるからこそ、その建物から外に広がる風景をいかに大事にしているかということが伝わってきた。以前、ホワイトストーンギャラリーソウルの完成においても、ギャラリーからの展望にこだわっていた話をしており、彼の美学が一貫していることが窺える。
写真を映しながら語っている隈研吾氏
地形をテーマとしている展覧会だからこそ、軽井沢という土地での開催がふさわしい、と語る隈研吾氏。Birch Moss Chapelなど、まさに軽井沢にあり、特徴的な白樺をメインの素材として作った建築が紹介される。他にも、川沿いの場所では、どのような建築がその場に融合するかなどのアプローチや、地形を活かした作品についても語ってくれた。
直近のプロジェクトである中国のUCCA陶美術館の模型は、今回が初展示となっている。今後開催が予定されている横浜市の花博のモニュメントなども紹介された。客席は満員で、質疑応答なども含め贅沢な時間を共有するひとときとなった。
隈研吾氏より特別コメント
隈研吾氏
今回は「地形」という、僕がある意味で、今まで一番大事にしてきたテーマを、初めて設定してみたという意味で、僕自身にとっても、非常に思い入れのある展覧会になりました。僕が設計を始めた時から、建築は「形」ではなく「地形」だというようなことを考えていました。それは僕の先輩の建築家たちが「形」をテーマにしていましたが、彼らがやってきたものに対するアンチテーゼとして、建築は「地形」だという形を持ってやり始めたんです。それがちょうど日本バブル経済が崩壊した90 年代の初めです。そういうタイミングとシンクロして、地形をこれからテーマにしていきたいと思っていました。それから30数年間、ずっと地形を追求してきたので、今までの人生の集大成的な展覧会になっていると思います。
ぜひ足を運んでみて、数々の展示を体感してほしい。自然と溶け合うような建築は、風景の中に埋没していくことによって、隈の理想へと近づいていく様子をご覧あれ。
展覧会情報
【会場】
軽井沢ニューアートミュージアム 第1~第6展示室(2階)
【開館時間】
10:00~17:00(7- 9月は18:00まで)
※入館は閉館30分前まで
【休館日】
毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
【臨時閉館・開館】
年末年始 2024年12月29日(日)~2025年1月3日(金)
冬季休館 2025年1月15日(水)~24日(金)
※8月は無休
【料金】
一般:2,000円、高大生:1,000円、小中生:500円
※20名以上の団体で来館の場合、上記各観覧料の200円引き
※未就学児無料、障がい者無料(付添いの方1名は半額)
【問い合わせ先】
軽井沢ニューアートミュージアム 学芸課
Tel:0267-46-8691