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台北の名司会者・蔡康永の初個展
2022.12.22 台北
INTERVIEW
台北の司会者といえば一番に名前が上がるほど有名な、蔡康永。人気作家として数々の番組の司会を務めてきた蔡康永が、この度アーティストとして初めての個展を開催する。ホワイトストーンギャラリー台北では、2022年12月16日に蔡康永個展『Always for You』が開幕。作家、司会者、そしてアートコレクターとしてキャリアを積み重ねてきた蔡康永に、初個展への意気込みをインタビューした。
ー蔡氏といえば、作家や司会という仕事に加えて、アートコレクターとしての活動も有名です。そんな中で作家として活動を始めたきっかけは?
蔡:自分の心に響かないアートはどこにでもあります。例えば、国際ビエンナーレの会場では、鑑賞者はさまざまな謎めいた作品に対面します。そして、自分の無知や無意味さを感じながら、瞑想し、混乱し、距離を置いたまま、作品を敬う。そういうことはよくあります。
アートを鑑賞している最中、私たちはアーティストが何を言おうとしているかを常に気にしますが、作品から何を得られるかを気にすることはほとんどありません。作品を見た時に、心地よさを感じるのか? 自然と笑顔がこぼれるのか? それとも、救いの手を待ち続けて諦めかけた瞬間に、命を救う浮き輪を手に入れるのか?
長い間そんな風に考えていた私は、自分が見たいと思うアートを作ろうと決心したのです。
展示風景より
ータレント活動とアーティスト活動は相互にどのように影響していますか?
蔡:司会者であれアーティストであれ、その分野で成功を収めようと思ったら、相手のことをずっと考え続けなければなりません。一方で自己表現も必要です。自分を表現しながらも、相手のことを考える。私は作品を作るとき、そこを感じてくれる人のことを考えながら制作しています。
展示風景より
ー蔡氏の作品には必ず言葉や文章が書かれていますね。
蔡:私は何十年も様々な分野で言葉を扱ってきたので、「文章」が持つ力にはかなり気を遣っています。私の作品は「文章」そのものであり、それぞれの文章は彼ら自身を必要とする持ち主に出会うことができると信じて、制作しています。
展示風景より、蔡康永《帶我走》2022, 100 x 100 cm, アクリル・キャンバス
ー制作している最中のルーティンはありますか?
蔡:文章を思いついたら、そのまま数日放置します。数日経った後もまだその文章に何かを感じたら、今度はそれを見る人がどんな人かを想像する。人によってどう感じるかだろうか? と考える。このテストに合格してやっと、絵の制作に取り掛かることができます。
制作中の蔡康永
ー今展『我一直替你好好收著』は蔡氏にとってアーティストとして初めての展覧会です。今展のタイトル名に込めた想いは?
蔡:映画『千と千尋の神隠し』の名文「一度あった事は忘れないものさ。思い出せないだけで」からヒントを得ています。普段は考えていないのだったら、私が預かっておこう。そんな気持ちが展覧会名の由来です。
展示風景より、蔡康永《一切》2022, 95.8 x 115 cm, レンチキュラープレート
ー「静かな言葉を探すこと、生活の中での言葉の見せ方を探すこと、言葉との関係を再体験すること、その関係こそが作品の持つ力である」というのが、制作のコンセプトとなっていますよね。蔡氏にとって言葉とはどんな存在なのでしょうか?
蔡:言葉は魂の具現化です。人間から言葉を奪ってしまえば、魂は孤独な檻に閉じ込められてしまう。言葉が簡単に貶められ、罵倒される時代だからこそ、言葉を大切にし、贈ることで、互いの心を通わせたいと思っています。
展覧会場の一室に書かれた作家の言葉。日本語で「作品を通して私を知って欲しいのではなく、作品を通してあなたを知ってほしい」という意味。
ー最後に鑑賞者にひと言お願いします。
蔡:「どう見るか」は問題ではありません。漢字に馴染みのある人にとっては、親しみやすい作品に仕上がっています。作品から引き出される自分だけの物語を感じ取ってもらえれば、それで十分です。
制作中の蔡康永
作品に登場する文章について、「笑顔や涙を呼び起こす文章には、それぞれの色と形式がある」と語った蔡康永。目に飛び込んでくる鮮やかなキャンバスと、そこに書かれた繊細な文字。それらの色と形にあなたは何を感じるだろうか? 蔡康永個展『Always for You』は2023年2月4日まで開催。「文章」と長く人生を共にしてきた蔡康永の作品を、ギャラリーとオンライン会場でご堪能あれ。
展示風景より