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ダイ・イン × 土方明司|先駆者の軌跡を辿り、内なる宇宙を広げていく
2026.03.30
INTERVIEW
川崎市岡本太郎美術館の土方明司館長がアーティストとの対話を通して作品に迫るシリーズ。今回は、世界中で展覧会や今最も注目すべきアーティストの1人である中国人アーティスト、ダイ・インとの対談を行った。
後編では、実際に見て周りながら、作品世界を深掘りする二人の様子をお届けする。また、ダイ・インが大いに影響を受けた草間彌生と田中敦子の話も合わせて行われた。
女神シリーズ:内なる神を探して

ホワイトストーンギャラリー銀座新館
土方: じゃあ実際作品を見せてもらえますか。まずダイさんがこちらの作品に込めた思いや、どういうきっかけでこの作品が生まれたか。
ダイ:これは《女神》シリーズの中でも比較的大きなサイズの作品です。この作品の核心は、中央を貫く垂直の軸線にあります。それは神性の門のようであり、同時に女性の身体を抽象化したものとも見ることができます。私はしばしば女性の臓器や身体を抽象的に処理し、画面に対称性を生み出しています。強いコントラスト、色彩の使い方、そして多層にわたる重なりによって、この中心軸が画面の中へと広がっていきます。
土方: このシンメトリーにしたのはどうしてなの?
ダイ: 対称性は、秩序と関係性を体現するものです。また、ある種の象徴的な荘厳さからも生まれています。私は人間を超越した神を探求したいわけではありません。神は私たちの身体の内側に宿っていると信じています。これらは人と神とのつながりを象徴しています。そして、神が自らの身体に宿るとき、荘厳さが生まれ、権威性が生まれます。それは女性の権威性です。
土方:この絵を最初見たときにいろんなこと思ったんだけど、まず1つには曼荼羅みたいに見えるんですね。宇宙の図という意味で。
ダイ:私自身は、あまりそこには踏み込みたくないと思っています。私にとっては、自分の身体のようなもの——身体の抽象的な表れです。
土方: けれどそれを聞くと、やはり胎蔵曼荼羅をイメージしますね。曼荼羅というのは胎蔵曼荼羅と金剛曼荼羅とあって、胎蔵曼荼羅っていうのは子宮、母性原理なんですよ。で、金剛曼荼羅っていうのは男性原理なんです。

クローズアップ
ダイ: また、この三角形はとても安定した構造で、権力の威厳を体現しています。ここに立つと、それをある種のシンボルとして想像することも、あるいは女性の生殖器の表現として直接受け取ることも、どちらもできます。実際にこれは、上へと示される力の表れです。画面の中には左旋の輪と右旋の輪も含まれており、一方は再生を、もう一方は輪廻を表し、宇宙全体の秩序を共に示しています。
この作品の素材は中国の宣紙(せんし)で、比較的厚めのものを布に裏打ちしています。やはり私の初期の伝統的な絵画経験と深く結びついています。
土方: ダイさんの作品はいわゆる曼荼羅みたいな宇宙的な広がりをまず感じます。次に、非常にシンボリックな、図形というものが非常に効果的に使われていますね。あともう1つ、これも大事なんだけど、技法的に、いろんな表現を駆使してる。この3つがうまく噛み合って、非常に密度の濃いものになっていますね。
ダイ: そうです、密度はとても高いです。たとえば、なぜ私は金色を多く使うのか。それは、人類の文化の発展の中で、金色は古代エジプトの時代から常に王権・権力・権威の象徴として使われてきたからです。私は金色を女性のシンボルの中に取り入れることで、女性の権力と権威を示そうとしています。

ホワイトストーンギャラリー銀座新館
Mシリーズ:多次元宇宙への想像

ホワイトストーンギャラリー銀座新館
土方: これはまたちょっと違う雰囲気を持っていますね。こちらについても、解説していただけますか?
ダイ: これは私が長い時間をかけて制作し続けているシリーズで、「M-Theory」、つまり超弦理論(M理論)と呼んでいます。画面の中に描かれた量子や惑星のようなものが、ネットワーク状のつながりを示しています。これは実は、目や他の部位など、人体の臓器の隠喩でもあります。多次元宇宙への私なりの想像です。
このように処理した理由は、色の彩度と密度が高すぎると、画面が重く、息苦しくなってしまうからです。画面に呼吸感を持たせ、観客により多くの想像と感受の余地を残したいと思っています。この処理の仕方は、実は幼少期に書道を学んだ経験と関係しています。虚と実が相互に生かし合い、構造と関係のバランスを大切にするという考え方です。
草間彌生と田中敦子へのオマージュ:同じ足跡を辿り、新たな地平を切り拓く

土方館長とダイ・イン
土方: 田中敦子と草間彌生の作品と一緒に並んでるけど、草間彌生に対して、ダイさんが思ってることを教えてもらえますか。
ダイ: 実は、アートを学び西洋美術史を知っていく中で、草間彌生のことを本当の意味で知るようになりました。だから私の中では、彼女はアジアや日本のアーティストというだけではありません。彼女のアート実践と歩んできた道は、学生時代の私に非常に大きな影響を与えました。
彼女の芸術的な歩みがあったからこそ、私は2011年にニューヨークへ向かうことを選びました。学びのためではなく、プロのアーティストとしてのキャリアへと直接踏み出すために。その後のパフォーマンスアート、インスタレーション、そして学際的な制作のあり方も、草間彌生から深く影響を受けています。
アジア人女性として、当時のアート界はまだ男性が主導する社会構造の中にありました。草間彌生が成し遂げた成果こそが、私が目指したい方向でした。だからこそ、私はニューヨークへ行ったのです。
土方:あなたならきっと大丈夫ですよ。

ダイ・イン
ダイ: ちょうど草間彌生がニューヨークへ渡ったとき、彼女より50歳年上のジョージア・オキーフに導きを求めたように、私も目には見えない力——灯台のように私を導く力——がいつもあると信じています。草間彌生のアート実践は、彼女の内なる最も真摯な感情から生まれています。私にとって最も重要なのは、彼女が何を描いたか、画面上の表現力がどうであるかではなく、芸術に対する彼女の誠実さと、一生をかけた献身です。
これは後の世代のアーティストとして、私たちが特に到達したいと思う姿です。ホワイトストーンギャラリーがこの機会を与えてくださったことに、深く感謝しています。私にとって、初めて草間彌生と同じ場所で展示できたことは、ひとつの「抱擁」です。でも今日を境に、これはまた別れでもあると私は信じています。なぜなら、私はこれから未来のアートへと進んでいくからです。

土方館長
ダイ: 田中敦子は、私が後から知ることになったアーティストです。彼女を通じて、私は日本の具体とモノ派を具体的に理解しました。アジアの芸術運動として、具体とモノ派は世界のアートの文脈においても非常に重要です。それらはアメリカの1950〜60年代のポップアートやフルクサスといった動向とは異なり、その影響を受けることなく、独自に発展した思考の在り方です。
土方: 彼女たち二人が活躍していた時代は、女性は蔑視されていたよね。
ダイ: そうです。当時は、アーティストとしての立場だけでなく、女性そのものが差別されていました。キャンバス上の作品は彼女たちの芸術のひとつの表れにすぎませんが、最も偉大な成果は、常に身体を使って実験的で意味のある芸術探求を続けてきたことにあります。彼女たちからの影響は、私がキャンバス上の制作にとどまらず、より広い領域へと展開していくことにもつながっています。
土方: ダイさんがこれからアーティストとして日本で活躍することを期待しています。
ダイ: ありがとうございます。

クローズアップ
幾つものシンボルが組み合わさりつつ、水墨のような色彩が同時に画面上に存在するダイ・インの作品たち。宇宙を内包しながら女性性の力強さや精神性をダイナミックかつ神秘的に伝えてくる彼女の描く先は、先人たちの軌道から更に未来へ向かうに違いない。