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一瞬に光る言葉と色彩ー大塚愛からAIOへ
2025.05.23
REPORT
現在、ホワイトストーンギャラリー軽井沢ではAIOの個展『ふ』が開催中。AIOとは、シンガーソングライターとして活躍している大塚愛の、芸術作品を作るアーティストとして活動する名義である。
今回の個展を記念して、ホワイトストーンギャラリーのCEOである白石幸栄との対談が行われた。油絵だけでなく書やミクストメディアなど、幅広い表現を手がけるAIOの魅力をお届けする。
水にたゆたい、咲く「私」

AIO《私》2025, 90.8 × 116.7 cm, Oil on canvas
アーティスト・AIOとしての活動は、音楽とは異なる手法で自身の内面を表現する新たな試みである。歌手として多くの人の心に響く楽曲を届けてきた彼女は、“描く”ことを通じて、愛と感性のあり方を再構築している。共通するのは込められた「一瞬」を作品として立ち上がらせることだ。
油彩作品の中でも象徴的なのが、今個展のキービジュアルとなっている《私》。自画像として描いたハマギクの花の作品だ。かつてアルバムのプロモーション中に心が折れた出来事をきっかけに、「花が落ちた場所が美術という水の上だった」と語るAIOは、現代美術という新たな水の流れに身を委ね、自身の居場所を模索している。ハマギクの花言葉は「逆境に立ち向かう」という意味で、音楽業界とは異なるフィールドに足を踏み入れたばかりの彼女の心境も表している。
一瞬に宿る愛のかたち

ホワイトストーンギャラリー軽井沢
自身の書についてAIOは「一瞬にかけた花火のような集中力と、自分がこめる一瞬にかける楽しさ」に魅力があると語った。偶然に起こる墨の乾き具合や広がり、気温や湿度などで変わる墨の色など、意図したことだけではなく起こる全てに、まるで「筆がダンスしているような感覚で書いている」と言う。
白石から、書として書いた「愛」という文字を選んだことについての質問には、彼女にとっていかに特別な意味を持つ言葉であるかが伝わってきた。自分の名前として与えられた「愛」という文字を、改めて書として向き合うことで、自分の存在や意味を見つめ直す契機となった。
油絵と花のミクストメディア作品についても、「愛を甘く描きたくなかった」と語る彼女にとって、愛とは決して甘やかなだけのものではない。時に塩気を含み、痛みとともにあるものだと定義し、その多面性を表す。また、花というすぐに枯れてしまう素材を使うことによって、「一瞬の嬉しさと、手にした時の切なさが一緒に来る」というポジティブとネガティブが同時に存在する花の魅力を表している。
「ふ」に込めた、しなやかさといたずら心

トークイベント中のAIOと白石
本展のタイトルにもなった「ふ」というひらがなにも、AIOらしいこだわりがある。今回が個展としては2回目の開催となるが「数字の2や、Twoという言葉は使いたくなかった」として、ひふみという数え方の「ふ」を採用した。
それ以外にも「ふ」というひらがなには、女性らしい柔らかさやしなやかさを感じさせると話す。一方で、「ちょっと『ふ』と笑う悪さ」のニュアンスも含んでいるといたずらっぽく笑うAIO。彼女の語る女性らしさが、単純な柔らかさだけでない、複雑さも感じられる。

ホワイトストーンギャラリー軽井沢
また、観客からの質問に気さくに答えてくれる一幕も。大塚愛の代表曲である「さくらんぼ」をタイトルに冠した作品が何故3点あるのかを質問され、楽曲としても様々なバージョンとしてリリースしていることを挙げた。更に、一般的には明るく元気な曲だと認識されているが、それだけではなく、歌詞にセクシーさも含まれるなど曲の持つ多様さを表そうとした結果、複数の作品となった、と丁寧に解説していた。
他の質問にも、全て分かりやすくユーモアを交えた回答をして、名残惜しさを残しながら対談は幕を閉じた。

観客に答えるAIO
アーティスト・AIOとしての歩みはまだ始まったばかりだが、その作品には他者の心に触れる「一瞬」や、決して一面ではない彼女の魅力が詰まっている。
ホワイトストーンギャラリー軽井沢ではAIO個展「ふ」が開催中。オンラインでも、AIOの作品を楽しむことができる。