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Large-Scale Exhibition of Lee Ufan's Art at Hyogo Prefectural Museum of Art

2023.01.18
ART NEWS

 

李禹煥《関係項》1968/2019年, 石、鉄、ガラス, 石:高さ約 80cm、鉄板:1.6×240×200cm, ガラス板:1.5×240×200cm, 森美術館、東京, Photo by Kei Miyajima

兵庫県立美術館の開館20周年記念「李禹煥」が、2022年12月13日から2023年2月12日の期間において開催されている。国際的にも大きな注目を集めてきた「もの派」を代表する美術家、李禹煥(リ・ウファン、 1936 年生)の待望の日本での大規模な回顧展の開催となる。

展覧会ポスター

東洋と西洋のさまざまな思想や文学を貪欲に吸収した李は、1960 年代から現代美術に関心を深め、60 年代後半に入って本格的に制作を開始。視覚の不確かさを乗り越えようとした李は、自然や人工の素材を節制の姿勢で組み合わせ提示する「もの派」と呼ばれる動向を牽引した。また、すべては相互関係のもとにあるという世界観を、視覚芸術だけでなく、著述においても展開。李の作品は、芸術をイメージや主題、意味の世界から解放し、ものともの、ものと人との関係を問いかける。それは、世界のすべてが共時的に存在し、相互に関連しあっていることの証となっている。

李禹煥、フランス、アングレームでの《関係項-星の影》設置作業、2021年, Photo©Lee Ufan

奇しくも私たちは、新型コロナウィルスの脅威に晒され、人間中心主義の世界観に変更を迫られている。李の思想と実践は、未曾有の危機を脱するための啓示に満ちた導きでもある。 本展では、「もの派」にいたる前の視覚の問題を問う初期作品から、彫刻の概念を変えた〈関係項〉シリーズ、そして、静謐なリズムを奏でる精神性の高い絵画など、代表作が一堂に会す。また、李の創造の軌跡をたどる過去の作品とともに、新たな境地を示す新作も出品される。

兵庫県立美術館開館 20 周年記念 李禹煥

展覧会冒頭に展示されるカンヴァスにピンクの蛍光塗料を用いた三連画《風景I,II,III》(1968年) は、東京国立近代美術館で開催された「韓国現代絵画展」(1968年)に出品された李の初期の代表作。蛍光塗料を用いたレリーフ作品《第四の構成 A, B》(ともに1968年)と同様、視覚を攪乱させるような錯視効果を強く喚起する作品である。トリッキーな視覚効果を引き起こすこれら作品は、1960年代末の日本に興隆していた傾向を反映している。

李禹煥《風景I,II,III》1968/2015年, スプレーペイント/カンヴァス, 各 218.2×291cm, 個人蔵(群馬県立近代美術館寄託), 展示風景:「李禹煥 時を住まう」ポンピドゥー・センター=メス、メス、 フランス、2019 年2月27日-9月30日, ©ADAGP, Paris, 2022. ©Centre Pompidou-Metz / Photo Origins Studio

1968年頃から制作された〈関係項〉は、主に石、鉄、ガラスを組み合わせた立体作品シリーズ。これらの素材には殆ど手が加えられていない。李は、観念や意味よりも、ものと場所、ものと空間、ものともの、ものとイメージの関係に着目。1990年代以降、李はものの力学や環境に対しても強く意識を向けるようになり、石の形と鉄の形が相関する〈関係項〉も制作している。より近年の作品では、環境に依存するサイトスペシフィックな傾向が強まっており、フランスのラ・トゥーレット修道院で発表された《関係項―棲処(B)》(2017年)はその典型である。

李禹煥《関係項―棲処(B)》2017年, 石, 作家蔵, 展示風景「ル・コルビュジエの中の李禹煥 記憶の彼方に」展、ラ・トゥーレット修道院、エヴー、フランス, 2017年9月20日-12月20日, ©Foundation Le Corbusier, Photo by Jean-Philippe Simar

2021 年、李はフランスのアルルにある古代ローマの墓地アリスカンを舞台に個展を開催した。礼拝堂内に展示された《関係項-無限の糸》は、鏡のように磨き上げられた丸い大きなステンレスの底面に向かって、上から細い糸が一本垂れ下がる、〈関係項〉シリーズの最新作の一つ。本展では、兵庫県立美術館の地下から 2 階へと続く螺旋階段に、本作を元にした新作が設置されている。

李禹煥《関係項―無限の糸》 2022年, ステンレス、糸 サイズ可変, 作家蔵, 展示風景「李禹煥 レクイエム」アリスカン、アルル、フランス, 2021年10月30日-2022年9月30日, ©Studio Lee Ufan / Photo by Claire Dorn

1971年にニューヨーク近代美術館でのバーネット・ニューマンの個展に刺激を受けた李は、 幼児期に学んでいた書の記憶を思い起こし、絵画における時間の表現に関心を強めた。 1970年初頭から描き始めた〈点より〉と〈線より〉のシリーズは、色彩の濃さが次第に淡くなっていく過程を表している。行為の痕跡によって時間の経過を示すこのシステマティックなシリーズは、10 年ほど続けられる。

李禹煥《点より》1977年, 岩絵具、膠/カンヴァス, 182×227cm, 東京国立近代美術館

李禹煥《線より》1977年, 岩絵具、膠/カンヴァス, 182×227cm, 東京国立近代美術館

1980 年代に入ると、〈風より〉と〈風と共に〉のシリーズに顕著なように、画面は荒々しい筆遣いによる混沌とした様相を呈する。80 年代終わり頃からはストロークの数は少なくなり、画面は次第に何も描かれていない空白が目立つようになる。2000 年代になると、〈照応〉と〈対話〉のシリーズが示すように、描く行為は極端に限定され、ほんの僅かのストロークによる筆跡と、描かれていない空白との反応が試される。〈点より〉や〈線より〉 と対照的に、これらは空間的な絵画のシリーズと言える。

左:李禹煥《風より》1985年, 岩絵具、油/カンヴァス, 227×182 cm, 豊田市美術館、左:李禹煥《応答》2021年, アクリル絵具/カンヴァス, 291×218cm, 作家蔵

作家・李禹煥(リ・ウファン)

李禹煥、フランス、アルル、アリスカンにて 2021年 ©Studio Lee Ufan / Photo by Claire Dorn

1936 年、韓国慶尚南道に生まれる。ソウル大学校美術大学入学後の 1956年に来日し、その後、日本大学文学部で哲学を学ぶ。1960年代末から始まった戦後日本美術におけるもっとも 重要な動向の一つ、「もの派」を牽引した作家として広く知られている。1969年には論考「事物から存在へ」が美術出版社芸術評論に入選、1971年刊行の『出会いを求めて』は「もの派」 の理論を支える重要文献となった。『余白の芸術』(2000年)は、英語、フランス語、韓国語 に翻訳されている。50年以上に渡り国内外で作品を発表し続けてきた李は、近年ではグッゲンハイム美術館(ニューヨーク、アメリカ合衆国、2011 年)、ヴェルサイユ宮殿(ヴェルサ イユ、フランス、2014年)、ポンピドゥー・センター・メス(メス、フランス、2019年)で個展を開催するなど、ますます活躍の場を広げている。国内では、2010年に香川県直島町に安藤忠雄設計の李禹煥美術館が開館している。本展は、「李禹煥 余白の芸術展」(横浜美術館、2005年)以来の大規模な個展となる。

作家自ら展示構成を考案

兵庫県立美術館

本展は李禹煥が自ら展示構成を考案。1960年代の最初期の作品から最新作まで、李の仕事と経過と性格を網羅的に浮き彫りにする。本展は、彫刻と絵画の2つのセクションに大きく分かれており、彫刻と絵画の展開の過程が、それぞれ時系列的に理解できるように展示されている。

安藤忠雄設計による兵庫県立美術館の建築に合わせ、屋外にも作品が設置。本展は2022年8月から国立新美術館で開催された展覧会が巡回したものだが、兵庫県立美術館だけで展示される新作が鑑賞できる。

また、兵庫県立美術館で開催されてる「2023 年コレクション展I」でも、「もの派」の作家たちの作品を展示。李禹煥に加えて、菅木志雄といった「もの派」を代表する別作家の作品を鑑賞することができる。

李禹煥《関係項》1983年, 山村コレクション 昭和61年度山村節子氏寄贈 ©Lee Ufan

開催概要

兵庫県立美術館開館 20 周年記念
李禹煥
会期:2022年12月13日(火) - 2023年2月12日(日)
開館時間:10:00-18:00 ※入場は閉館の30分前まで
休館日:月曜日
会場:兵庫県立美術館
住所:兵庫県神戸市中央区脇浜海岸通1丁目1-1
観覧料:一般 1,600 円 / 大学生 1,200円 / 高校生以下 無料 / 70 歳以上 800円 / 障がいのある方(一般)400円 / 障がいのある方(大学生)300 円 ※コレクション展は別途観覧料が必要です(同展とあわせて観覧される場合は割引あり)

展覧会に関する詳細と最新情報は美術館公式サイトにて、ご確認ください。

兵庫県立美術館

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