屋久島はユネスコの世界遺産に登録されている。屋久島には原生林が生い茂り、特殊な生態系が保たれている。巨木と湿度の森に分け入ると、岩と樹皮はびっしりと苔に覆われている。硬い花崗岩が大地に張り巡らされているため木々は深く根を張ることができず、古木も含めて根は様々な形態を形づくる。古代からの雄大な自然美には人智を超えた隠されたパワーがある。ひとりのアーティストとして、初めて屋久島の地を踏んだ二川和之は、苔に覆われた根元から枝葉の末端までに注意深く目を凝らした。碧々とした木々に魅了された作家は、天才的なブラシストロークでそれらを再生。自然への畏怖を惜しみなくその芸術へと注ぎ込む。

二川和之は1954年香川県高松市生まれ。金沢美術工芸大学を卒業後、東京芸術大学大学院にて日本画を専攻。日本画の技法を継承しつつ、岩絵の具を精緻に用いる。作家によれば、自然の美を表現できるのは岩絵の具だけだという。度重なる塗り込みの後でも油彩ほど重くなく、水彩とは明らかに異なる。絵柄は蝉の羽のような繊細さをもつ。また、二川はしばしば金彩と金箔の技法を創作へ盛り込む。その芸術は、明度により様々な表情を見せる。西洋的な光と影のスタイルを採り入れ、因襲的な日本画の平坦さには遠近法とテクスチュアが付与される。静謐な風景のただなかで、作家本人の眼に映った光景を誠実に描き出す。

二川和之の作品には深淵なる精神性が溢れている。現実を超え、輝くばかりに美しい精神的風景に転化させる。近年では、墨の濃淡を活かした写実的な新領域を開拓、深い称賛をもって迎えられた。その新たな試みの代表作『秒差二態』は2013年の損保ジャパンFACE展において優秀賞を受賞。

Taipei Gallery

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