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金丸悠児の創作世界:動物たちが語りかける生命の神秘
2025.07.15
INTERVIEW
鮮やかな色彩と独特の質感を持ち、見る者の心に深く語りかける動物たち。画家・金丸悠児は、アクリル絵具や岩絵具、コラージュなど多彩な技法を組み合わせた「ミクストメディア」で、動物たちの内に秘めた生命の煌めきを描き出す。
彼が動物というモチーフにたどり着いた経緯、幾重にも重ねられた絵具と計算されたひび割れに隠された技法の秘密、そして作品を通じて鑑賞者と分かち合いたい想いとは。その創作の源泉に、インタビューを通して迫る。
写実からの変化:自分の表現を求めて

作家のアトリエにて
一画家として活動を始めたきっかけや、現在の作風に至るまでの経緯を教えてください。
金丸:東京藝術大学デザイン科在籍中(1997~2003)、師である大藪雅孝先生と中島千波先生をはじめ、有元利夫さん、榎俊幸さんなど、デザイン科出身の画家たちの活躍を知ることになり、影響を受け、その道に進みたいと考えるようになりました。
駆け出しの頃は、アクリル絵具を用いながら写実的に人物や静物を描いていましたが、思うように描けず限界を感じた時に、ふと楽な気持ちで動物の絵を描いたことがありました。それが思いのほか自分の感覚にフィットした仕上がりになったことがきっかけとなり、自分らしい表現を手に入れることができ、現在に至ります。
動物を描くことの意味と向き合い方

金丸悠児《陸と海と空の行進》2019、98.0 × 163.1cm、ミクストメディア
一動物を主なモチーフに選ぶ理由や、動物に込めている思いについてお聞かせください。
金丸:初めて描いた動物が「カメ」でした。長寿の象徴であり、悠久の時間を感じさせる神秘的な存在が魅力でした。その後、古代魚や爬虫類を描くようになり、さらに哺乳類や鳥類など、今では幅広い動物を描いています。彼らの姿を単に観察し写し取るのではなく、自分自身のフィルターを通すことで、その特有のフォルムを抽出し、内面性を描き出そうと試みています。
一制作のインスピレーションはどのような時に、どのようなものから得ていますか?
金丸:過去の経験や記憶が大きく影響していると考えています。例えば、幼少期に訪れた土地、少年期に触れた娯楽、学生の時に鑑賞した芸術など、普段は意識せず描いているのですが、完成した作品からは自然と滲み出ていると感じます。
多層の絵の具とひび割れが生むハーモニー

作家のアトリエにて
ー作品制作でこだわっている技法や素材について教えてください。
金丸:基本はアクリル絵の具をベースに使い、部分的に岩絵の具、粉末状の画材、布や英字新聞のコラージュなどを組み合わせて描くことから、技法は「ミクストメディア」としています。動物のボディに配色する色面は、ローラーやペインティングナイフを使って、絵具を20層重ねて生み出したものです。
動物の背景には、クラッキング技法を用いています。ひび割れの隙間から奥に隠れた色彩を見せることで、画面に深みを演出しています。元々マチエル作りが好きでしたので、様々な材質感の差異を面白く見せるために工夫しながら絵作りを行なっています。
一作品における色彩の使い方や、色選びで意識していることは何ですか?
金丸:沢山の色を使う作品を描いていますが、自分自身が心地よいと感じる色彩であることを大切にしています。それでいて仕上がった時には、「赤い絵」「青い絵」といったような、シンプルで視覚的に分かりやすい絵であることを意識しています。
動物の存在に託す願いとこれからの挑戦
一作品を通じて伝えたいテーマやメッセージは?
金丸:動物は古来より、家族や友人として、また時に畏怖の対象として私たちの生活に根付き、「想いを投影する器」として、心の隙間を埋めてきた存在でもあります。そうした動物たちの息遣いや、命の煌めきが感じられるような表現を目指して制作してきました。ぜひ作品を通して動物たちとの対話を楽しんでいただきたいと思います。
一今後挑戦したいテーマや表現、または目指しているビジョンについてお聞かせください。
金丸:今年で47歳になるのですが、この先の未来に自分の画業を振り返った時に、これが「金丸悠児の40代の代表作」と胸を張って呼べるような作品を描きたいと思います。

金丸悠児《時の都》2025、72.7 × 91.0cm、ミクストメディア
過去の記憶を色彩に、動物という存在を形に変え、唯一無二の世界観を構築する金丸悠児。彼の作品は、単なる動物画に留まらず、鑑賞者一人ひとりの想いを受け止め、静かな対話を促す「器」としての役割を担っている。これから生み出されるであろう新たな作品が、私たちにどのような物語を語りかけてくれるのか、期待は膨らむばかりだ。