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解体・溶解・再構築|断片化されたフィギュアとアイデンティティ

2024.03.05
FEATURE

『three: three is a magic number 21』Whitestone Ginza New Gallery, 2024

色とりどりの鮮やかなスカルプチュアやデバイスが展示されているように見える、アーティストユニット・three の作品群。しかし作品の表面をよく見てみると、びっしりと隙間なく詰め込まれた顔や四肢、衣服を認めることができる。嗜好品として世に出回っているフィギュアを、なぜ作品の素材として使用するのか? 福島にあるthreeのアトリエを訪ね、その制作方法から作品に込められたテーマを探求。メンバーのひとりである川崎弘紀の言葉とともに紐解く。

断片化が魅せる “刹那”の演出

three《6309g》 2024, 50.0×90.0×50.0cm, Figure, Acrylic box.

threeの作品づくりは、まず大量のフィギュアを分解=断片化することからはじまる。カプセルトイに使用されるフィギュアは最初はバラバラの状態で入っていることが多く、カプセルから出した後に組み立てることで完成する。そこから再び制作のために必要な部位に選り分けるのだ。そのキャラクターを最大限に体現する顔などの部分は作品表面の素材として、その他の部分は細かく分解・切断されて、純粋なる素材へと回帰していく。

キャラクターの個性を最も主張する顔の部分。作品の前面に使用されることが多い。

「全体を見せるのも良いんですが、独立した断片を見せることで、顔や目だけが抜かれる漫画のコマ割りや、一部分だけが映る映画のカットシーンみたいな、勢いのある演出を僕たちの作品で垣間見せたい」

フィギュアを細かくチップ状に切断した状態。爪よりもさらに小さく切断することで、理想的なマーブル状に滑らかに溶け合う。

断片化と集約で形成される個人

ヒートガンでフィギュアを溶かしている様子

個々のフィギュアを解体し、溶かし、1つの作品へと再構築するプロセスを通して、threeは個人と大衆という社会の関係性に言及する。アニメや漫画、映画に登場するキャラクターはオリジナルは1つだけだが、オリジナルから作られたフィギュアは何百、何千と複製されて世に流通していく。

作家アトリエにて

一方でthree を代表する醤油差しなどを大量に使用したインスタレーションでは、全体を構成する群衆から構成物の1つへと、フィギュア作品のそれとは逆方向の集約方向が表現されている。

three《Tokyo I/O》2019, 1318×477×300cm, Fish type soy sauce container, Water, INK, Wood.

個から大衆へ、大衆から個へという双方向は、1人の人間が自我(アイデンティティ)を形成する上で重要な要因である。断片化されたさまざまな文化、思想、歴史、社会といった、これまでに接してきたすべてのもの、吸収してきたもの、学んできたものが、溶け合い寄せ集まったものが “現在の自分” なのだと川崎は語る。

粘土で制作した作品の原型。実際のフィギュア制作と同様に、最初に原型を制作し、その後石膏で型をとり、石膏型に切断したフィギュアを貼りつける。

溶け合う素材による切断の美

three《6309g》2024, 50.0×90.0×50.0cm, Figure, Acrylic box.

同じフィギュアを用いた作品でも、ペインティングのような平面作品から立体作品、そしてテレビやゲーム機器など既存のデバイスを利用した作品まで、threeの表現手法は多岐にわたる。

なかでも彼らがホワイトストーンギャラリー銀座新館での個展『three is a magic number 21』で挑戦したのが、立体としての造形と切断を1つの作品で共存させることだった。three の作品のなかには、フィギュアがマーブル状に溶け合った切断面や切削面を敢えて見せることでフィギュアを素材として使用することを大胆に主張したものも多い。

『three: three is a magic number 21』Whitestone Ginza New Gallery, 2024

彼らが行ってきた作品の切り方の中でも、同展ではアーティストたちが最も魅力的だと感じる「水平」という切断方法が作品形態に落とし込まれている。例えばバニーガールのような姿をした作品《6309g》では、9つに切断された部位がそれぞれアクリルボックスに入っている。形態を保持しつつも、アクリルを不規則に配置することで、立体感が揺さぶられる作品となっている。

水平にカットした立体を部位ごとにアクリルボックスに納めた作品《6309g》。アクリルの配置は変えることができるので、様々なレイアウトを楽しめる。2024, 50.0×90.0×50.0cm, Figure, Acrylic box.

なぜ大量のフィギュアを用いるのか?

作家アトリエにて

threeがフィギュアを素材として用いるようになったのは、ユニットとしてスタートしてすぐの公募展がきっかけだった。フィギュアという素材の研究から始まり、試行錯誤したのちに、現在の作風にたどり着いた。

「大理石みたいなテクスチャーの色は全て、そのキャラクターの色なんですね。フィギュアの表面塗装の色が最終的にマーブル模様の色の元になるのですが、キャラクターが誰かということから離れてて、だんだんと色味というシンプルなものに還元していく。そういったところを面白いと感じているので、さまざまなフィギュアを溶かす作品を作るようになりました」

『three: three is a magic number 21』Whitestone Ginza New Gallery, 2024

当初1体を溶かすことから始まった作業だが、他のフィギュアと溶け合わせることも可能になると、作品スケールが大きくなるとともにテーマ性も帯びるようになった。

「例えばインターネットのように、色々な人間の色々な趣味思考みたいなのが全部溶け合って1つのプラットフォームになるように、色々な出事を持った色々なキャラクターの集合体という作品ができると思った」

人間と物質:個々と全体

作家アトリエにて、three メンバー・川崎弘紀

福島にあるアトリエでのインタビューで「身近にある素材を大量に使う作品が多いので、夥しい数のものが集まったときの言語化できない圧倒的な圧やパワーを感じてほしい」と語った川崎。

threeはフィギュアを素材とした作品を通じて、個人と大衆の複雑な関係性を探求し、断片化されたアイデンティティが再構築される過程を鮮やかに表現している。個々の要素がひとつの全体へと溶け合い、新たな形を生み出す力強いメッセージを作品でご堪能あれ。

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