ARTICLES
ハイブリッドな幻想と伝統の架け橋:鴻崎正武インタビュー
2025.06.23
INTERVIEW
ホワイトストーンギャラリーシンガポールは「ストーリー・キーパーズ:物語と伝統」展で、日本におけるストーリーテリングの永続的な影響を探る。 現代美術を通じて、変容、霊性、アイデンティティというテーマを探求し、古代の物語に対する新しい解釈を提供する。
今回は、日本古来の物語に登場する桃源郷を、彼の故郷の史跡とともにユニークに描いた鴻崎正武の作品を紹介する。16世紀オランダの画家、ヒエロニムス・ボスに多大な影響を受け、和紙に岩絵具とアクリル絵具を混ぜ合わせ、金箔や銀箔を繊細にあしらい、中世の絵画のような独特の画風を生み出した。
今回のインタビューでは、彼のルーツとなるコンセプトや日本の伝統的な素材やモチーフをより現代的に解釈し、伝統と現代的かつ芸術的な視点を結びつける一貫したアプローチについて掘り下げる。鴻崎の緻密さで注目を集める作品は、過去・現在・未来の架け橋となる。
ホワイトストーンギャラリーシンガポール
ーあなたの作品はハイブリッドな生き物で構成されていますが、そのアイデアはどこから得たのですか?
鴻崎:西洋ではギリシャ神話のキメラ・グリロス、東洋では竜や鵺、山海経などに掛け合わせられた幻想動物が描かれていて、日本でもゴジラ(ゴリラとクジラと放射能)などのサブカルチャーに見受けられています。幼少期にテレビで見た「仮面ライダー」の怪人達は、正しく自分の原風景といえるでしょう。
15世紀の宗教画、特にヒエロニムス・ボスの「快楽の園」に出てくる生き物達は、世界の関節を脱臼させたような、怖いというよりもキッチュでユーモラスなものが多く、どこか人間臭い。聖書に出てくる「生命の樹」も様々なものが掛け合わされたランドマークタワーの様で、人類が作り出す誇張された未来のイメージの象徴の様にみえます。
私の絵にもその様な、人間臭い、誇張された未来のイメージの象徴として、ハイブリッドな生き物を登場させています。
“TOUGEN Osawa 1”2013, 81.0 x 162.0 cm, 麻紙, 岩絵の具, アクリル, 箔, 共シール
ーあなたの故郷について、またその場所が芸術的な活動や表現にどのような影響を与えてきたかもお聞かせください。
鴻崎:私の実家は原発事故があった福島双葉町というところにあります。事故が起こった時、私は勤め先の大学がある、山形県の山に囲まれたところで被災しましたが、両親は今も近隣に避難を余儀なくされています。双葉町は復興が進んで、原発事故のアーカイブセンターもでき、住民が戻ってくる準備が整ってきましたが、私の実家の近辺はまだバリケードが張り巡らされている状況です。
昨年、ヒエロニムス・ボスの故郷であるデンボスという町を訪れました。ボスの故郷も震災や疫病、戦争などの波乱に満ちた歴史があり、絵画にはその影響が色濃く出ています。私の絵にも、無意識に震災やコロナの影響が反映されているのかもしれません。
鴻崎正武 《Evolution》 2022, 49.8φ, 麻紙、岩絵具・アクリル・箔・油絵具
ーだるまやこけし人形など、日本の伝統的な要素に芸術的な焦点を置くことを決めたきっかけは何ですか?
鴻崎:私の描く絵のモチーフになるものは全て、人間の欲望や祈りの象徴とされるものです。ハイブリッドなキメラ、生命の樹、楽器、宇宙船、裸の女性などに加え、だるまやこけしも人々の願いの化身です。
特にこけしは東北唯一の民芸品で、ルーツを辿るとロシアのマトリョーシカとも言われています。ボスやブリューゲルの絵画にも、子供達の遊戯が描かれていて、日本の東北地方で生まれ育った私の感性と、北方ルネッサンスの画家が描くものに深く共感するものがあります。
鴻崎正武 《Together》 2022, 49.8φ, 麻紙、岩絵具・アクリル・箔・油絵具