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見つめ返される存在に「双方向の作用」を求めて:神木佐知子インタビュー
2025.12.29
INTERVIEW
神木佐知子は常に新たな境地へと歩みを進めている作家だ。変化と連続性の間で、神木佐知子は何を見つめ、描こうとしているのか。最新の作品では、これまでとは異なる人物描写が見られる。今回のインタビューでは、来る2026年1月の展覧会に向けた新作のコンセプトから、制作プロセスの深層、そして彼女がアートに込める哲学までを深く掘り下げる。
空間との調和から生まれる統一感
─今回の展覧会に向けて、作品から「これまでと違う」と感じられる最大の変化は何だと思いますか。その変化は意図的な試みなのか、制作の流れの中で自然に生まれたものなのか教えてください。
神木:これまでと違うと感じる変化は特にありません。むしろ、展覧会での統一感を意識しました。会場の空間を想像し、そこから作品のサイズや構成を考えていきます。
制作を進める中で、最初に考えていた構成から自然と変化していくこともあれば、初期構想のまま進むこともあります。たとえ意図的に何かを試みたとしても、想像通りに制作が進むことはあまりないです。私自身は作風が変わったという感覚はあまりなく、過去の作品から要素を抜き出してきたり、新しいものから取ってきたりと、様々なアプローチを組み合わせるようにしています。アトリエにはこれまでの作品を小さく印刷して貼っており、それらを見ながら影響を受けて制作することも多いです。
─新たな試みを試しているだけということですね。技法や素材、そして制作プロセスのうち、新たなアプローチがあれば具体的に伺いたいです。
赤、黄、黒、白の4色で基本構成を作り、それらの色を各作品に乗せるようにしています。技法や素材自体は特に変わっていません。変えることを意識したわけではありませんが、制作を続けるうちに段々と選ぶ色や作る色が定まってきたように感じます。
今回の4色は、展覧会会場である銀座のギャラリーが持つ、まとまりのある空間から着想を得ました。その空間に合わせて、少し落ち着いた、まとまりのある絵を描こうと考えたのです。最初に黒を使いたいという思いがあり、そこに白、赤、黄色を加えてみたらしっくりきた、という流れで決まりました。
ただ、いつもの色に固執せず、たくさんの色や素材で遊ぶことも制作に取り入れていきたいと考えています。まとまりが良すぎると、今度はデザインの方向に寄りすぎてしまう懸念もあり、その点は探りながら制作しています。
美しいだけで終わらない、人物と花木の融合

神木佐知子 "fantasist” 2025, 65.2 × 53.0cm、アクリル・キャンバス
─今回の展覧会において表現したいテーマはありますか?
神木:今回の展示では、昔から描いている花や木をモチーフに用いながら、人物との融合性を主なテーマとしています。人物が主役で花木が脇役、という関係ではなく、どちらも主役として成立させることに試行錯誤しました。
あえて写実的な表現を歪めることで、鑑賞者に違和感を生じさせ、花や木という美しいモチーフを、ただ美しいだけで終わらせないように描いています。私の作品は「可愛い」と言われることがありますが、その中にどこか「怖い」と感じるような要素を少しだけ入れたい、と常に思っています。
─過去作との連続性について伺います。今回のシリーズにつながる要素や、自覚的に反復しているモチーフはありますか。
神木:人物や花木といったモチーフは、反復して描く傾向にあります。特定のモデルはいませんが、これまでの人生で出会ってきた人々から影響を受けて描いています。街で見かける人々の服装やその色味からインスピレーションを得ることも多いです。
作品の中の人体表現は、リアルな人物とは異なります。しかし、その表現の中で、描かれた人たちの心情や性格を、表情以外の部分からも伝えられるように線を引いています。花木も繰り返し描くことが多いモチーフですが、そこに依存しすぎないよう常に意識しています。
作品と鑑賞者の「双方向」の関係性

神木の作品たち
─今回の作風を、観客にはどのように受け取ってほしいと考えていますか。鑑賞者に期待する点があれば教えてください。
神木:作品の、特に中にいる人物を意識して制作しました。デザインに寄ってしまうと、建物と調和しすぎて溶け込んでしまうため、そうならないよう、そこに「存在」しているかのような感覚が生まれるよう作りました。
一方で、存在感のあるものとして感じてもらいながら、作品の中の人物は目線を曖昧にすることで、作品に一方的に見つめられるのではなく、鑑賞者が作品の中にいる人を見つめてみる。そんな双方向の作用が生まれるといいなと考えています。
ただ、鑑賞者に何かを干渉する気持ちはありません。見た人が、見たままに楽しんでいただければと思います。
─今回の試みが今後の制作にどのようにつながると考えているか、現在の見通しを伺えればと思います。一時的な実験なのか、新たな方向性として継続していくのかもお聞きしたいです。
神木:今回の試みというわけではありませんが、最近、果物をモチーフとして使うことで、静物である作品に「味覚」が加わるような感覚を覚えています。花や木が生命力や華やかさを感じさせてくれるものだとすれば、果物は作品に一種の「美味しさ」を与えてくれるのです。
描いてみて初めて「美味しそうな絵ができる」ということに気づきました。このように、作品を生き生きとさせてくれるモチーフは、今後も継続して描いていきたいと思っています。
空間との調和を重んじる神木佐知子の創作は、常に過去の自身との対話から生まれる。彼女の作品は、鑑賞者の前に一つの「存在」として立ち、静かでありながらも相互作用を求める。一見すると愛らしく見えるその奥に潜む微かな違和感や怖さこそが、作品に深みと生命力を与えている。
鑑賞者の自由な解釈に委ねる彼女の姿勢は、アートが持つ本来の自由さを体現しているかのようだ。これからも神木佐知子は、反復と実験を繰り返しながら、私たちを新たな感覚の世界へと誘ってくれるだろう。