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G7サミットで平和の祈りを届ける《DANDELION PROJECT》|NAKED代表・村松亮太郎

DANDELION PROJECT おりづるタワー

NAKED, INC. の創業者である、村松亮太郎。映画監督、映像制作、空間演出、地域創生など、あらゆるジャンルのプロジェクトを率いている彼だが、同時にいちアーティストとしての活動も行っている。2023年5月19日から21日に広島で開催されたG7サミット(主要国首脳会議)では、2020年より手掛けている《DANDELION PROJECT》を行った。同プロジェクトを展開することになった契機やテーマ、そしてG7での開催意義を、作家本人にインタビューした。

DANDELION PROJECTに込めた平和へのストレートな願い

左より、村松亮太郎、岸田裕子夫人、アメリカ大統領夫人 ジル・バイデン、ドイツ首相夫人 ブリッタ・エルンスト、イギリス首相夫人 アクシャタ・ムルティ、EU委員長夫君 ハイコ・フォン・デア・ライエン

フランス、米国、英国、ドイツ、日本、イタリア、カナダ(議長国順)の7か国と欧州連合(EU)の首脳が参加して開催される、国際会議「G7サミット」。コロナウイルスによるパンデミック、ロシアによるウクライナ侵略など、国際的に緊張する場面が続く中で、原子爆弾による壊滅的な被害と復興を経験した広島でのG7サミットは、国内外から注目されている。

広島のシンボルでもある原爆ドームのある平和記念公園に隣接する「おりづるタワー」では、G7サミットの開催に合わせて、村松が手掛ける《DANDELION PROJECT》が展開。5月19日には「G7広島サミット パートナーズ・プログラム」の一環に、G7首脳の配偶者の方々が同プロジェクトを体験した。また翌20日には、社交行事でNAKED, INC. によるプロジェクションマッピングを駆使した演出を実施。NAKED, INC. としても、個人のアーティスト活動としてもサミットに貢献した。

特に《DANDELION PROJECT》は人々をアートで繋ぐことで平和を祈るアート作品ということもあり、G7サミット広島で披露する意義は大きい。同プロジェクトは、大きなタンポポのオブジェに息を吹きかけると、別の場所に植樹(設置)されているタンポポに綿毛が飛んでいき、そこで花を咲かせるというアートプロジェクト。2020秋に始まり、これまでに日本各地やシンガポール、フランスを繋いできた。

ー《DANDELION PROJECT》をやろうと思ったきっかけは?

村松:個人としての活動をするにあたって、自分がどういう作品を作るべきかを考えていた際に、普遍のテーマを取り扱ったらおもしろいのではと思った。プロジェクトの構想自体はテロを発端としていて、イスラム地域で平和を願う人が増えたら、ワールドトレードセンターに花が咲くという方法で世界を繋げないか、と考えていました。そんな時にコロナ禍に見舞われた。アートが時代の中でしか生まれてこないものだとしたら、今の時代で一番必要なことは何かを考えた時、“平和のアート”が感覚的にしっくりきたんですね。

DANDELION PROJECT, 2020, シンガポール / ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ

ーだからこそ、「A WORLD FULL OF PEACE / 平和でいっぱいの世界」というメッセージをストレートに表現しているのでしょうか?

村松:ここでいう「平和」は世界平和だけではなく、平穏という意味も含めています。コロナ禍という未曾有の事態によって人々が分断されたことで、それそれが平和を願う気持ちを強く実感していた。このことをアートで表現できれば、時代とのコミュニケーションもできると思ったんです。

アートの世界でここまで直接的なテーマを掲げることは珍しいと思うし、監督時代にはブラックジョーク万歳の作品を作ったこともあるけれど、「結局愛や平和が大事なのでは? 」と今の時代に強く感じている。だからこそ、作品のコンセプトを粉飾なしに「平和」にしました。

無形化するアート

DANDELION PROJECT, 2021, 日本・京都 / 清水寺

ー《DANDELION PROJECT》は各地にある DANDELION をデジタル技術を使って繋ぐ作品ですが、NAKEDでの経験が生かされているのでしょうか?

村松:デジタルと映像はビットの世界なので、実際に物質として存在しているわけではない。この作品において本当に価値があるのは、人々が花を咲かせ合って繋がっているという事実。ネットワークという概念こそが、アートなんです。重要なのは、タンポポの綿毛が飛んでいって花を咲かせるという概念であり、それが成立してさえいれば、反対にどんな形であってもいいと思っています。だから名前にもプロジェクトと入れています。

ー概念をアートとして提示していると?

村松:DANDELIONの見た目は決して重要ではない。アートの歴史に照らしていえば、オブジェクトとしてのDANDELIONをアートと呼んでいたけれど、私にとっては1つのツールでしかない。これは、これからの時代のアートは無形化するという私の提示であり、物質性を重視するアート世界への僕なりのアンチテーゼでもあります。

平和を望む広島の地でプロジェクト原点に戻る

DANDELION PROJECT おりづるタワー

おりづるタワーでのDANDELION PROJECTに合わせて、フランスのパリ日本文化会館と、アメリカ・サンフランシスコにある紀伊國屋ビルにも、DANDELION が植樹。その様子をリアルタイムで繋ぐ試みも実施された。

ー「平和」をテーマにしている同プロジェクトは、G7サミット、そして広島での開催と非常に親和性がありますね。

村松:DANDELION PROJECTは人々が世界との断絶を実感している中で生まれました。構想自体はそれより前にありましたが、時代との対話の対話で行ったプロジェクトであり、G7サミットでの開催に声を掛けてもらったことは大きな驚きだったし、私が大きな時代の流れの中にいると感じています。

自分でも出来すぎたストーリーだなと思ったりもするけど、そこに面白さと「僕が果たさなきゃいけないことなんだ」という使命感を感じている。なにより、最初にやりたいと思ったことに戻ってきた。当初の発想に近付いたことで、自分がやってきたことは正しかったと、再確認できる機会になりました。

岸田裕子夫人が《DANDELION PROJECT》を体験している様子。

いちアーティストとしての活動を始めた理由の中で、「自分が良いなと思うことを誰かに好きだと言ってもらえることは、単純に嬉しい。私はこう感じるけど、君はどう? というコミュニケーションをアートでやってみたいと思った」と語った村松。

「平和」という壮大なテーマを掲げたDANDELION PROJECTと並行して、鑑賞者1人ひとりと濃密なコミュニケーションを図ろうとするプロジェクトも進行している。今後の村松亮太郎の活動にご期待あれ。

【DANDELION PROJECT おりづるタワー】
開催地名:おりづるタワー
住所:広島県広島市中区大手町一丁目2番1号
展示日程:2023年5月19日、及び 5月24〜8月31日
協賛:一般社団法人関西イノベーションセンター
後援:ひろぎんHD、三菱UFJ信託銀行

DANDELION PROJECT おりづるタワー

【DANDELION PROJECT パリ】
開催地名:パリ日本文化会館 http://WWW.MCJP.FR
住所:101 bis, quai Jacques Chirac 75015 Paris, France
展示日程:2023年5月19日〜5月27日
展示時間:11:00-19:00

日仏の官民合同プロジェクトとして1997年に開館した海外における最大級の日本文化発信拠点「パリ日本文化会館」。伝統文化からポップカルチャーまで幅広い日本文化の紹介や日本語教育等を行っており、令和4年度は13万6000人余の入館者数を記録した。

【DANDELION PROJECT サンフランシスコ】
開催地名:紀伊國屋ビル サンフランシスコ・ジャパンタウン
住所:Kinokuniya Building, Japantown, San Francisco, USA
展示日程:2023年5月19日〜5月28日(毎週金土日)
展示時間:12:00-18:00
主催:Japantown Community Benefit District, Inc.
協力:Kinokuniya Bookstores of America, USA

アメリカのカリフォルニア州にある日本文化の発信地「サンフランシスコ・ジャパンタウン」。日本人や日系アメリカ人の歴史や文化を反映した建物や和食レストラン、日本食材店、工芸品店などが並ぶ。

ホワイトストーンギャラリーでは、NAKEDによるG7サミットでのプロジェクト開催を記念して、村松亮太郎の新作をリミテッドエディション(限定3点のみ)で発表いたします。作品詳細はこちらから。

村松亮太郎『Kaleido Jellyfish -2023- Limited Edition』

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