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手びねりで紡ぐ柔らかく温かな世界:寺倉京古インタビュー

2025.06.10
INTERVIEW

柔らかに見える白い陶土で作られた作品は、思わず触れたくなるような質感をたたえている。雲の上に浮かぶ子どもたちの表情は、何を考えているか分からない故に、見つめ返したくなる。

寺倉京古は、一貫して子どもをモチーフに、寄り添うような温かみのある作品を制作し続けている。その作品は、無垢の象徴としての「こども」という存在を通じ、私たち自身の人生を映し出す。寺倉京古に、制作の根底にある思いや、被り物の謎、今展覧会のコンセプトについて話を聞いた。

無垢な子どものかたちは反映する

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ホワイトストーンギャラリー銀座新館

ー長年にわたり子どもをモチーフに作品を作り続けているのはなぜでしょうか?

寺倉:子どもは無垢の象徴とも言えますし、希望を託せる存在だと考えているからです。そういった子どもという存在をモチーフに、焼きものという、長く残る素材で作ることが自分にとっては意味があると思っています。

子どもって、面白くも不思議ですよね。多くの人が可愛らしいと思ったり、特別だと感じたり……私は、子どもは誰もが心を通わせられる存在だと考えています。それに、全ての人が成長の過程で子ども時代があるので、かつての自分たちも投影できるような存在なのではと捉えています。また、子どもであれば、作品を身近な友達のような存在として見ることができるのではないでしょうか。

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自分自身も作品に対して想いやメッセージを込めてはいるんですけど、作品を鑑賞する人にとっても気持ちや思いに寄り添える存在であるのが子供ではないかなと思っているので、ずっとモチーフにしていますね。

また、子どものムチムチ感というか、柔らかい形に惹かれるので、それを表現したいというのもあります。また、あえて表情をつけないようにしています。些細な変化はありますが、見る人のその時の気持ちにより添える存在でありたいんです。

想いを受け止め、見守る存在

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ー今回の展示において、寺倉先生が込めている祈りやメッセージはどんなものでしょうか?それは何に対する祈りでしょうか?

寺倉:祈りは「未来への願い」のようなものだと考えています。具体的に何かを強く意識して祈っているというよりも、それぞれの人の心や暮らしが平穏であるようにという思いです。私自身の想いも込めていますが、見る人ごとの想いや気持ちをやわらかく受け止めるための器として制作しています。そうした意味で今回の展示会では「祈り」という言葉がしっくりくるのではないかと考えています。

ー例えば、鑑賞者が寺倉先生の作品を見て、自分の子どもを思い出したり、あるいは世界平和を願ったり、思い描いたものを幅広く受け入れてくれる器のようなものというイメージでしょうか?

寺倉:そうですね。お地蔵さまや神仏のようなイメージでもあります。焼きものは永く残るので、作品が時を超えて見守ってくれる存在であれたらなと思います。

雲の流れに身を任せ

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ー今回の展覧会のタイトル「雲のまにまに」の着想やコンセプトを教えてください。

寺倉:日々生きてきて感じる、人の一生の儚さやうつろいを、雲の流れにいて身を任せることに重ねたイメージで決めました。人生は自分の進みたい方向に自分で決めて進みますが、どうしようもなく抗えないことや、時間の流れみたいなものが必ずあります。雲を見ていると、水が循環して雲になって流れて巡っていく様子が、人々の暮らしとか、長い目で見たら生命や歴史など、長い時間の中での繰り返しの中に、自分たちもその 1 つとして存在してるんじゃないかな?と思うところがあって、今回のテーマを考えていました。

うさぎの被り物に込められた想像力

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ー作品の中で動物の耳がついているモチーフの作品は、被り物をしてる子どもか、それとも動物そのものでしょうか? どういう存在か教えてください。

寺倉:あれらは動物の被り物をしている子どもとして作っています。擬人化的であり、キャラクター的な表現になっているので、捉えづらいものかもしれません。そもそも、自分が作っている作品の子どもたちはモデルがおらず、現実にいるリアルな子どもではありません。私の心の中に無意識にいる子どもです。抽象的というか偶像的な存在の、妖精みたいなこどものようなイメージで作っていますね。

ー今回特に多いのはうさぎの被り物ですが、これはなぜでしょうか?

寺倉:単純に私が耳が長くて丸い尻尾という、うさぎの存在やビジュアルが好きだからです。リアルなうさぎとの関わりはそんなに深くはないんですけど、小さい頃から好きなモチーフでした。動物は犬が好きなんですけど、なぜか落書きとかで描くのはうさぎでしたね。

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ー他には羊や、動物以外ではリンゴの被り物などの作品もありますね。どうやって決めているのでしょうか?

寺倉:羊もいます。3匹の羊の物語のイメージで作りました。被りものでお遊戯の役をやってるような子どものキャラクター性みたいなところを表現しています。これもお遊戯的な感じの作品ですね。

あと、雲に乗っているうさぎに関しては、月に住んでいるうさぎの話があるじゃないですか? その言い伝えが子供の頃からずっと印象に残ってて、個人的にすごく好きで、そこから作っています。空の上に住んでるうさぎという存在に引かれています。

ー妖精や、現実にないものから着想を得ることが多いのでしょうか?

寺倉:そうですね。やっぱりそういう話を考える人間の想像力というのが面白いなと思います。影響を受けたアーティストや作品などもあまりなくて、身近なもの、自然や出来事などからモチーフや作品のテーマを考えています。

手びねりだからこその柔らかさと唯一性

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ー今回はほぼ手びねりの作品だけを展示しているのはなぜでしょうか?

寺倉:磁土を使って自分で型を使って流し込む「泥漿鋳込み」だと、同じ形の繰り返しになるんです。それはそれで面白い表現ができるとは思っていますが、手びねりだと一つひとつ手で土をひねり出して作るので、それが最近楽しいなという個人的な制作の楽しさからです。あとはやっぱり1個1個が同じものはないものになるのが大きいです。もちろん、型で作った場合でも、型から出してから、私は結構加工したり、造形を施したりもします。多少でも一点ずつの個性を出したいなと思ってるので、型から出して柔らかいうちにちょっとずつ表情を変えたりとか加工するんです。そのため、今回新たに作った作品は、手びねりのみですね。

ー今回のモチーフに最も適した作り方なのですね。

寺倉:そうですね。あと、現実的な問題で言うと、自分自身の身体能力的に手びねりの方が大きい作品を作れるというのもあります。手びねりの方がもっと自由で、より直感的な作り方ですね。中から力を入れて土を膨らませたり、押し出したり、へこませたりすることによって、雲の柔らかさや、子どもの肌の柔らかさ、ハリみたいなものを表現できる作り方だと思います。

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手びねりで一つひとつ生み出された作品に、同じ形は二つとない。それは、私たち一人ひとりの人生が唯一無二であることと重なる。雲のように流れ、変化し続ける日常の中で、寺倉の作品は静かに佇み、見る者それぞれの記憶や願いを受け止めてくれる。ぜひ会場で、その柔らかな造形と温かな眼差しに直接触れてみてほしい。



寺倉京古:雲のまにまに

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