ARTICLES

意志ある線で、今の女性を描く:itabamoeインタビュー

2025.04.18
INTERVIEW

シンプルながら力強い線で描かれた女性たちは、こちらを見つめ返すような眼差しをたたえている。

itabamoeが描く女性像には、どんな思いが込められているのか。イラストレーターとしても活動する彼女に、アーティストとしての現在地を尋ねた。

「いい女」に共感が重なった

Articles_itabamoe_Interview

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

ー女性をテーマにしている理由を教えてください。

itaba: 元々アパレル業界出身で、女性向けの洋服のデザイン画を描いていたのが描き始めたきっかけでした。女体というか女性の体つきを描くのがすごく楽しくて、そこから絵を描き始めたんです。私の生き方の流れや、世間が私の描く女性像を求めてくれるものなどで、自然と描くものが女性に固まっていった感じですね。

ーitaba先生は特に「いい女」を追求していますが、その理由を教えてください

itaba: 初めはキャッチフレーズをつけず、純粋に女性を描いていましたが、「女の子描いてください」とか「女の子を描くイラストレーター」みたいな感じで扱われることが多かったんです。私が描くのは女の子という響きでもないし、かといって女性というほど堅苦しい感じでもない。何かいい言葉ないかなと考えた時に、「いい女」というフレーズが浮かびました。ニュアンスが伝わってくる素敵な言い回しだなと思ったんです。

「いい女描きます」と名乗り始めてから、結構すぐにみんなが認知してくれて、それは多分私の描く女性像に対するぼやっとした認識がすごい合致したのを感じたので、そこから多用してこの言葉を使ってます。

Articles_itabamoe_Interview

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

ーインスピレーションはどこから得ますか?

itaba: いい女を描くにあたって、自分も女性として生きてるので、やっぱり表現する上で自分の中の憧れや、社会に対して思うこととか、1番身近に表現する熱が入って制作できるのもあるのかなと思ってます。

また、特定の誰かとして描いているというよりかは、現代を生きる女性のマインドを投影したくて描いています。なので、作品を見た方が、「自分に似てる気がする」と伝えてくれることがすごく多いんです。いろんな人に共感するような、書き込みすぎないシンプルな線の表現によっていろんな共感を呼んでいると思うんですけど、そういうところをイメージしています。

私が大元としてイメージしている女性像は、どこにいても引力があるような、生きてるだけで存在感が強く、媚びないようなオリジナルな人物に憧れがあるので、そういう吸引力があるような人物を書きたいなと思ってます。

ー作品制作の際に重視している要素やアプローチを教えてください。

itaba: 女性を描いていくにつれて、歴史を学ぶようになりました。昔は女の人は家庭に入ってたり、社会進出が出来なかったり、そういう自己主張や、好きな服も着れなかった時代があった。今は先人たちが色々な活動をしてくれたおかげで、まだまだ変えていかなきゃいけないところもありますが、主張を自然と発信できたり、女の人が意思を持って自由に生きられる時代になっています。私たちからしたら普通のことだけど、長い歴史の中で見たらこういう女性たちが今の特徴だと思うので、そういう姿を作品として残して、未来の人たちにも繋げていけたらいいなと考えています。

また、ただ綺麗だったり、可愛い、美しいから描くというのではなく、マインドみたいなところを、ちゃんと 1 枚 1 枚人に伝わるように意識して描くようにしてます。

求められる像から、描きたい像へ

Articles_itabamoe_Interview

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

ーまなざされる女体ではなく、主体的にヘルシーなセクシーさを見せていらっしゃるように思いますが、そのあたりはどう意識されていますか?

itaba: 今は様々な人に対して配慮が必要な多様性の時代だと思うので、表現する上で女性の肌の露出についても結構悩むところではあります。かといって、女性性というものを、全部なくすのも、あるものを無視することもできないなって思います。変な目で見て人に危害を与えるような言い方じゃなくて、純粋に綺麗なものは綺麗だよねという感覚を大事にしたいんです。女性の体のラインの美しさが好きで、服とかで覆い隠したくないんですよね。服ってそれだけですごく情報が詰まってるので、最低限キャミソールなどの格好をさせていることが多いです。女の人の心の芯を描きたいので、そういう女性らしさを、心地よく感じ取ってもらえたら嬉しいなと思っています。

ー今回のキービジュアル「pattern_flower #017」に込めた思いを教えてください。

itaba: 全体を通して伝えたいイメージは変わらないのですが、ちょっと想像力を使うような、意味深な空気感を出したいと思いながら制作しました。いつものポップな感じより、ちょっと落ち着いた色味で、その上で蛍光色を使ってコントラストを生み出して、少しシックなイメージで描いています。制作期間中の冬から春にかけてだと、自律神経が崩れて気持ちが落ち込みやすいのですが、今年はそれを味方につけて、このローなテンション感での美しさを表現できたかと思います。

Articles_itabamoe_Interview

itabamoe “pattern_flower #017” 2025, 91.0 × 65.2 × 5.2 cm, アクリル、キャンバス

ーアーティストを目指すきっかけは?

itaba: 元々服が好きで、古着が盛り上がっていた時代の影響もあり、文化服装学院に入りました。その時に絵を描くデザイナーの授業で、人物をキャッチーな線画で描く面白さを知りました。その後、アパレルで仕事をしていた時、雑誌などの市場調査中に、服より誌面のデザインや挿絵に目が行くようになり、興味からイラストレーターになりました。

イラストレーターをフリーで10年やってきましたが、広告などで描いてきた中で、求められる女性像は「笑顔」とか「明るい色を使う」とか、特定の人のためのものだと感じていました。自分の中にある女性像を突き詰めて作品を残していきたいなと考えて、3、4 年くらい前からアーティストとして活動し始めました。クライアントワークと同じモチーフを書いてるけど、全く別のマインドとして活動してます。

抜け感で描く「時代」

Articles_itabamoe_Interview

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

ーあえて色を塗らない部分を残す手法や、シンプルな線の描写は、どうやって辿り着いたのですか?

itaba: デザイン画がルーツにありますが、元々は服を引き立たせるための骨組みとして描いていました。そこで描く女性の線ってすごくシンプルなんです。そのため全部描き切らない、ちょっと抜け感のあるようなタッチですが、このストレートで少ない線でちゃんと情報を伝えることにこだわっています。

色に関しては、元々イラストレーターの頃から白い紙にペンだけで表現してたので、その流れがあります。それと、以前は必要ないと思っていたからです。線だけで情報が完結すると思っていたのと、肌を塗るとアニメーションっぽくなる感じがしていました。最近は、新しい作品にちょっと色をつけてみています。線は自分の武器だと思ってるので、そこを残しつつもちょっと新しいアプローチにも挑戦しています。

ちょっと前までは、シンプルなものがいいとされた引き算の時代だったと思うんですが、最近はK - POP アイドルとか他の国の文化とかが盛り上がっていて、日本でも過剰に装飾的になっている時代に変わってきました。そこの時代の空気感を捉えていきたいんです。目で見ても楽しい時代だと思ったので、色の情報とかを取り入れるきっかけになりました。

Articles_itabamoe_Interview

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

ー作品を通じて、現代社会における女性像や美しさの価値観にどのような影響を与えたいと考えていますか?

itaba: 自分の作品から、影響を受けて髪を切ってみたとか、こういうイメージになりたくて努力しているという声をお客さんから聞きます。私もまた、今を生きる女性たちから刺激をもらっているので、リアルな女性たちに刺激を与えられるのはすごい嬉しいことだなと思っています。今を生きてる女性たちにフィットした表現をできればいいなというのを考えていますね。

Articles_itabamoe_Interview

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

itabamoeの描く女性は、常に時代を映し取る存在である。それ故、見る者は「今」を感じたり、あるいは自分を投影したり、心を寄せるのだ。

現在ホワイトストーンギャラリー銀座では、加藤美紀とitabamoeによる2人展「Real women - Through the Passage of Time」が開催中。ともに「女性」をテーマに描く作家でありながら、それぞれ異なる視点と対照的なアプローチで、時間の流れや女性の多様性を感じ取ることができる。



Real Women - Through the Passage of Time : 加藤美紀 & itabamoe

メールマガジンで最新情報を受け取る

最新のエキシビション情報や会員限定企画をお届けします。


メールアドレス登録後、確認メールをお送りします。メール内のリンクをクリックして登録を完了してください。

RELATED ARTICLES

FEATURES

  • ARCHIVE

  • ARTIST NEWS

  • EXHIBITIONS

  • GUTAI STILL ALIVE

  • SPECIAL

View more

メールマガジンで最新情報を受け取る

最新のエキシビション情報や会員限定企画をお届けします。


メールアドレス登録後、確認メールをお送りします。メール内のリンクをクリックして登録を完了してください。