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「人生にひと匙のスパイス」をふりかけるicco Yoshimuraの初個展インタビュー

2022.07.27
軽井沢, 日本

icco Yoshimura photo by Hideki Amezawa (Amezo)

爽快感のある鮮やかなカラーで彩られた食べ物や動植物たち。見るだけで気分が上がるような絵を描きつづけているアーティスト・icco Yoshimura(イッコ・ヨシムラ)の個展『add a dash of spice to life』が、ホワイトストーンギャラリー軽井沢で開催されている。念願の初個展『add a dash of spice to life』への意気込みや、会社員と兼業をしながらも画業を続ける理由、コロナ禍を経た作風の変化など、作家本人にインタビューした。

icco Yoshimuraの今やりたいを全て詰め込んだ初個展

展示風景より、icco Yoshimura『add a dash of spice to life』

ーさっそくですが、今展のタイトル『add a dash of spice to life』とはどういう意味ですか?

icco Yoshimura(以下、icco):『add a dash of spice to life』をそのまま和訳すると、「人生にひと匙のスパイス」という意味です。料理していてなんだか一味足りないなという時にスパイスを入れることがあると思うんですけど、そのイメージで制作してみました。

スパイスを入れる、という発想は絵を描く時にもともと意識していたことではあるんですが、せっかくの初個展なのでより意識して制作し、個展のタイトルにもしました。

ー初めての個展ということですが、どんな個展になりましたか?

icco:スタッフの皆さんにはとても迷惑をかけたと思うのですが、やってみたいと思ったことを全て相談させてもらったんですね。「自分のやりたいこと、やりたい空間を表現するのが個展としての正しい姿だ」と以前言われたことを思い出して、それならやりたいことを全部やってやろう! と。

大きい絵を置きたいとか、立体を置きたいとか、やりたいことを話し合いながら決めたので、私の “やりたい” がたくさん詰まった個展になりました。見る人に楽しんでもらえるのはもちろん嬉しいんですが、私が一番満足しているかもしれません(笑)

10メートルに及ぶ “フルコース絵巻”

展示風景より、icco Yoshimura『supper』2022年, 100.0 × 975.0 cm, ロール・カンバス・アクリル

ーiccoさんのやりたいことが全部実現した展覧会ということですが、中でも見所は全長10mのカンバス作品ですよね。制作しようと思ったきっかけは?

icco:晩餐会が催されるような長いテーブルって、幸せの塊みたいな感じがして、とってもいいですよね! 身近な人たちとテーブルを囲うように作品を覗きこむことができれば幸せな空間になるのではないかなという想いから、描き始めました。

ー具体的にはどんな食卓が描かれているんですか?

icco:レストランのフルコース料理を食べるイメージで描きました。レストランに行く前にコーヒーを飲みながら友達と待ち合わせをする。そのあとお店に行くと、はじめに前菜があって、スープが出てきて、メインが登場する。お酒を飲んでいる人はチーズを食べたり、最終的にはみんなでデザートを楽しむ、という食事の流れを意識しました。なので、端から少しずつ食事が進んでいるように見ることができると思います。

icco Yoshimura『supper』2022年, 100.0 × 975.0 cm, ロール・カンバス・アクリル

ー全長10mという大作ですが、どんな風に制作を進めるのですか。

icco:まず最初に、10メートルのロールキャンバス全てに地の色を塗っていきます。机の上にキャンバスの一部を広げて塗る。乾いたらロールを引いて、新しい部分が出てきたらまた塗って、乾かす。巻いて、引いて、巻いてという作業を繰り返して、地の色をすべて塗ります。

次に、あらかじめ掘っておいた消しゴムはんこを使って、テーブルの柄づけをします。キャンバスを伸ばして、ぽんぽんぽんとはんこを押して、くるくると巻く。この作業を延々と繰り返したのですが、すごく楽しかったですね。

ーかなり大変そうな過程ですが、ご自身ではこの過程が楽しかったと?

icco:下地を作っている時ってキャンバスが何にでもなれるので、一番楽しい時なんですよね。下地を作る=最初の可能性ができた状態で、そこから少しずつ形になっていくので、下地を作っているときが一番楽しいかもしれないです(笑)

はんこを押すときは、規則正しく押したり、反対に不規則に押したりと、考えながらというか、遊びながらやるのが楽しかったです。

ー10mの作品が完成した時はどんな風に感じましたか。

icco:ただただ「やったー!」 っていう感じです。というのも、実は半分ほど描いたところで、私の睡眠不足がたたったミスで作品がダメになってしまいまして。「もうこれ描くのやめようかな」って一瞬思いましたね(笑)

ー考えただけで顔面蒼白ものですね。それでは、制作の危機を乗り越えての超大作ということなんですね。

icco:頑張りました。10メートルの絵なんて初めて描きました。でも楽しかったので、あと2本ほど作りたいですね。

コロナ禍を経て気付いた、食事の意味

ーコロナ禍の前と後で、制作においての変化はありましたか。

icco:大きな変化がありました。私はご飯や食卓を描くことが多いのですが、コロナ禍1年目は多くのお店が営業を自粛しているし、人とも会えませんでした。そうして1人でご飯を食べることが多くなると、絵が描けなかったんですよね。生きるために食事をするという日々が続くと、しおれるように気分も落ち込んで。だからなのか、コロナ禍真っ最中は、楽しくなさそうな絵を描いていました。

ー「楽しくなさそうな絵」というと、暗い感じの絵ですか。

icco:そうです。私の絵は基本的に見た人が楽しく感じられるようにと絵を描くことが多いんですが、何だか暗い気持ちになる絵が多くなっていました。

icco Yoshimura《chamomile》2020, 30.0 × 30.0cm, カンバス・アクリル

ー暗い時代を経て、今展では再び楽しそうな雰囲気の絵が多いですね。

icco:コロナ禍前に完全に戻ったわけではありませんが、インターネットを介して人とコミュニケーションを取ることはできるし、違った形で楽しめるようになって、気持ちがやっと消化できたんだと思います。今はまたおいしいご飯食べに行きたいっていう気持ちも持っていますし、もっとたくさん絵を描こうと、前向きな気持ちになれています。

icco Yoshimura《flower 10》2022年, 30.0 × 30.0 × 4.0cm, パネル・カンバス・アクリル

子どもの頃からずっと絵を描きつづける理由

icco Yoshimura photo by Hideki Amezawa (Amezo)

ー絵を描くようになったきっかけを聞かせてください。

icco:絵を描くきっかけは明確に覚えています。実家がレストランなんですが、カウンターでの留守番中はとても暇なんです。子どもにとっての1、2時間って、かなり長いので、カウンターの前に並んでいるワイン瓶をカレンダーの裏にボールペンでずっと描き写していました。描いていると「ワインの瓶ってこんな形なんだ」っていう気付きがあったり、お客さんに「すごくいいね」と言ってもらえるのがすごく楽しかったので、そこからずっと描いています。

ーiccoさんは現在も会社員と画業を兼業されていますよね。今もずっと制作を続けている理由はなんですか。

icco:今描いている理由ですか? 楽しいから描いているというのが一番ですかね。明確な理由がなくて申し訳ないのですけど、自分が描いたを自分で見たときに、ニヤリとするくらい楽しいんです(笑)

描いているときも楽しいし、描き上がっていく最中も楽しいし、描き終わったら達成感がある。絵を描くことが自分にとって幸せなことなので、続けているんだと思います。

ー反対に描いていて苦しいと思うときはありますか。

icco:敢えて言うなら、チャレンジしているときですね。自分が描ける絵と、まだ描けない絵があって、描けない絵にチャレンジしているときは少し大変です。でも、徐々にでも形になっていくと楽しさを感じられるので、達成感のために頑張っています。

ー辛いと言う気持ちよりも、楽しいという感じが強いのですね。

icco:そうです。描き上げたあとに「ああ、だめだったのか」となることもありますが、「次また頑張ろう」と思えることが多いです。何より自分で仕上がりを見るのも楽しいですしね。

icco Yoshimuraの制作スタイル

10メートル絵巻『supper』2022年の下地アップ

ー制作のルーティンなどはありますか。

icco:私はスケッチを全然しないんですね。なので、一番最初に背景をすべてベタ塗りすることが多いです。一番最初にメインの色を決めて、そこから色を載せていくというのが定番のルーティンです。

例えば、夏の空みたいな強めの青をベタ塗りしたら、「これだったらすごく暑そう」って思いながら違う色をおいていく。そうすると全体的に色ばかりになってくるので、ピントを合わせるために物のアウトラインを取っていくという、スタイルが多いです。

ー下描きなしで作品を制作されるということですが、ある程度の完成図が頭の中にあるのでしょうか。

icco:イメージはあるときとないときがあります。完成図が無いときは、漠然と色のイメージだけで描いていって、徐々にピントを合わせていく感じですよね。ぼやけたレンズが少しずつピントが合わさって、最終的に絵になるという感じです。

「あのレストランで食べたお皿」という風に明確にイメージが固まっているものもありますが、抽象的な心象を描いているときは、完成まで自分の絵がどんな風に仕上がるか分からないときもありますね。

10メートル絵巻『supper』に使用されたハンコ。会場では作家が使用したハンコを実際に使用することもできる。

絵を描く原動力とモチーフ選び

展示風景より、icco Yoshimura

ー制作の原動力やモチベーションはどこから生まれますか。

icco:楽しいことをするための空間が家にあると幸せですよね。言ってしまえば、それを維持し続けているだけのような感じなんです。

それと、私の絵は食べ物に関するモチーフが多いので、美味しいレストランの評判を聞いたり、テレビ番組でおいしそうなご飯が出ているのを見た後なんかは、「これはおいしそうだな」としめしめ思いながら絵に描いたりします。

ー日常的な場面から作品のテーマを見つけることが多い?

icco:そうですね。人のご飯とか見るのが好きです。お行儀悪いですけど(笑)

今回の個展では、みんながどんなご飯を食べているのかを知りたくて、《memorys》という作品を制作しました。知人に何日か分の食事を全て写真に撮って送ってもらい、それを感熱紙に印刷してパネルに貼った作品です。

「こういうご飯の日あるよね」と思いながら見ることができるんですが、自分以外の人が体験した食事風景やそれにまつわる話を聞くと、また違った見方ができるという面白さを発見できたので、今後も制作を続けたいですね。

icco Yoshimura《memories》2022, 119.0 × 84.0cm, 厚紙・ミクストメディア・コラージュ

「Water of Life」シリーズの誕生秘話

icco Yoshimura《The Water of Life VI》2022, 60.0 × 42.0 cm, パネル・カンバス・アクリル

ーiccoさんの絵は色がとてもキレイで部屋が明るくなりますよね。私は特にサイダーが描かれた作品が好きです。

icco:「Water of Life」というシリーズの絵ですね。夏は暑いので水を飲まなきゃいけないじゃないですか。「Water of Life」シリーズを初めて描いた夏はあまりに頭がまわらなかったので、水だけ飲んでいたんです。そうしたら、水中毒になってしまって具合が悪くなっちゃったんです。そこで「水って大事だな」としみじみと思いながら描いたたのが「Water of Life」シリーズです(笑)

icco Yoshimura《The Water ofLife VII》2022, 60.0 × 42.0cm, パネル・カンバス・アクリル, photo by Hideki Amezawa (Amezo)

ー夏らしいと言えば夏らしい作品ですが、大変なエピソードですね。

icco: 夏は夏で合っているのですが、当時はつらかったですね(笑)でも、せっかくだから「おいしいお水を飲もう」というコンセプトで、最終的にはさわやかな仕上がりになりました。

色が“美味しそう”に見える

icco Yoshimura, photo by Hideki Amezawa (Amezo)

ーiccoさんが、一番こだわっている道具や素材はありますか。

icco:特定の道具や素材ではないのですが、好きな色をどれだけ集められるかがこだわりですかね。アクリル絵の具を見に画材屋さんに行くのはとても好きです。

色と感情(思い出)は強い結びつきがあると思っています。例えば「これはこの前のパプリカのムースの色だ」とか、「この色はきっとあのときのソースみたいな感じでおいしそう」という風に、色を見ているのがすごく楽しいですね。

ー色を見て「おいしそう」と思うことがあるんですか。

icco:思いますね。「絵の具食べるなよ」とよく言われます(笑)

ーご自身でも色を作ることはありますか。

icco:よく作ります。今一番好きな組み合わせは、オレンジと青色です。温かい優しい感じのオレンジなのですが、蛍光色が少し入っていて鋭く見えるので、青色と合わせると夏の夕方みたいな色になるんですよね。

ー今展の作品でも多用されている?

icco:よく使っているので、ぜひ探してみてください。

みんながそれぞれのおいしいご飯を

展示風景より、icco Yoshimura

ー最後に来場者の方にひと言お願いします。

icco:辛いときって誰しも絶対あると思います。“しんどい”という点数を追加していくと、しんどいにしかなりませんが、それを“楽しい”に置き換えていくと、しんどいの存在が薄れて楽しさが増えると思うんですよね。

私自身でいえば、水中毒という大変な体験から「Water of Life」シリーズが生まれていて、「あの時しんどかったな」だけではなくて、「このしんどいがこんな風になれば良かったよね」という風に制作に活かしています。

人間は辛いことを楽しさに変えていけると思うので、楽しい時間をみんな一人ひとり作っていけるようになれたら良いなと思っています。

それと、みんなおいしいご飯を食べましょう! 私の願いはそれくらいです。

展示風景より、icco Yoshimura『add a dash of spice to life』

幼少期から今まで絵を描きつづけている、icco Yoshimura。制作に関しても作品のテーマ選びにしても、iccoの作品には“楽しい気持ちでいること”が最優先されている。おいしそうな食事風景や、カラフルな植物や動物たちは、見ているだけでこちらまで楽しそうな気持ちになる。1人はもちろん、家族や友人と一緒に見ても楽しい個展『add a dash of spice to life』は2022年9月4日(日)まで開催中。また、オンラインエキシビジョンでは、個展展示中の作品もご覧頂ける。

展覧会詳細はこちら »

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