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巨大なアヒルが10年ぶりに香港に登場
2023.06.10
ART NEWS
10年を経て開催される『ダブルダックス』チャレンジ(写真提供: AllRightsReserved)
オランダの現代アーティスト、フロレンテイン・ホフマンが自身の代表作と言えるプロジェクトを携えて香港への凱旋を果たした。ラバー製の巨大なアヒルが再び注目を浴びるなか、香港では『ダブルダックス』と銘打たれた同プロジェクトに熱い視線が注がれる。
バスタイムの仲間から文化的アイコンへ変化したラバーダック
2023年5月25日、香港でのテストラン中のアヒルたち(写真提供: AllRightsReserved)
大規模な都市型インスタレーションにおいて、ホフマンは常に成功を収めている。黄色いボディにオレンジのクチバシが特徴的なアヒルは、トロ社が特許を取得したおもちゃであり、お風呂を象徴するアイテム。このアヒルからインスピレーションを受けたホフマンは、 “ラバーダック” がもつ驚異をアートを通して表現している。2007年のデビュー以来、この鮮やかなインフレータブル作品は、サンパウロの活気ある街並みから大阪の美しい水域、トロントのにぎやかな都市景観、日差しに包まれたロサンゼルスの海岸、そしてエネルギッシュな大都市ソウルまで、世界を巡る冒険を続けてきた。
ホフマンは黄色いゴムのアヒルを国境知らずの存在と表現している。ラバーダックについて「人々を差別せず、政治的な意図も有さない。フレンドリーでぷかぷかと浮遊するラバーダックは、世界的な緊張を和らげるだけでなく、それらを定義することもできます。ラバーダックは柔らかくてフレンドリーで、みんなが楽しめる存在です」と過去に語ってもいる。親しみやすく全年齢向けのホフマンの作品は、異なる人々や文化を結びつけ、異文化間での意義深い対話を生み出し、世界的な社会問題を明らかにし、それらの問題の緩和に貢献することで、地域とそこに住まう人々とを深くつなげる。だからこそラバーダックは、ホフマンの最も有名なインスタレーションの1つとなっている。
響きわたる創造性: ホフマンのダブルダックスが香港を席巻
青衣近くの水域を歩くアヒルたち(写真提供: AllRightsReserved.)
久しぶりの友人を出迎えるように、『ダブルダックス』というプロジェクトが2023年6月10日から香港で開催されている。ホフマンのラバーダックが香港を訪れてから10年。2013年にラバーダックが市内に大々的に登場した際、市民は巨大なアヒルに騒然として、800万人以上の人々がビクトリアハーバーに集結。10年後の今年は、ホフマンのおなじみの黄色いラバーダックが自身と瓜二つの双子のダックを伴って凱旋を果たした。
2013年、ビクトリアハーバーから人々を見つめるアヒル。写真提供: AllRightsReserved.
アヒルたちは、添馬公園と中西区のプロムナードの近くに登場。高さ18メートルものボディで香港の水域を楽しげに浮かぶ。近年パブリックアートは目を見張る進化を遂げている。パブリックアートは常設作品も多いが、ラバーダックを港に設置するのではなく、双子のラバーダックが海の上から人々にその姿を見せることで、鑑賞者の好奇心をさらに掻き立てている。
また「Double Ducks with Hong Kong Signature Icons」と題されたプロジェクトが同時に開催され、ダブルダックスのユニークな表現が香港の名所を彩る。尖沙咀のクロックタワーや宇宙博物館、活気ある蘭桂坊地区、色彩豊かなチョイ・ハン・エステートなど、ランドマークをキャンバスにするように、ダブルダックスが香港の至る所に登場。さらに香港のMTR駅のいくつかはダブルダックスの出口に変身。可愛らしいダブルダックスが、街全体に遊び心のある雰囲気を醸しだしている。
芸術的な才能の共同展示
青衣近くの水域を航行するアヒルたち(写真提供: AllRightsReserved.)
ホフマンは、創造的なブランドであるAllRightsReservedとコラボレーションして、ダブルダックスプロジェクトを実現した。良いものはペアでやってくる、という中国のことわざになぞらえて、2匹のアヒルには中国漢字「囍」(幸福)と「朋」(友)という言葉を通して、パートナーシップや友情などの相互関係と共有の繁栄が表現されている。また、このコンセプトには、物事を1つに結集することによって喜びと幸福が倍増する、という意味も付与されている。主催者は「ビクトリアハーバーを巨大なバスタブに変貌させることで、ダブルダックスがハーバーの活気あるスカイラインとともに微笑み、そして魅惑的なパノラマが構築される」と述べている。
『ダブルダックス』は、芸術表現が持つ変容と高揚の性質を活用したプロジェクトであると言える。香港政府観光局とMTRの支援により、関係組織はつながりを育み、調和を促し、コミュニティの集団精神に忘れがたい足跡を残す芸術の可能性を認め合うことで、今回のプロジェクトが実現された。
大きなバスタブに飛び込む準備をしているアヒルたち(写真提供: AllRightsReserved)
香港を愛らしく飾るダブルダックスプロジェクトは、その地に暮らす人々と観光者にとって見逃せないイベントとなっている。また、ホフマンの旅は日本で開催される展覧会『More Yellow』にもつながっている。ビクトリアハーバーでのダブルダックスプロジェクト、そして6月16日から始まる東京での個展で、喜びと幸福をご堪能ください!