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「日常を神話に変える」妖怪と西洋美術の融合:ファビアン・ヴェルシェールインタビュー

2026.02.06
INTERVIEW

ファビアン・ヴェルシェールのキャンバスには、夢と旅の寓話が描かれ、その奥で日常の神話性が立ち上がる。この記事では、彼の精神性がどう芸術に昇華されていくのか、その仕組みを深掘りする。

ーあなたの作品を通して表現したいテーマについて教えてください。

ヴェルシェール:キャリアをスタートさせた当初から、私は自分の日常を個人的な神話としてイメージに翻訳しようとしてきました。

1999年のある夜、私は若い画家にとっての主題は何であるべきか、一晩中悩みました。常に同じ対象物を異なる構成で描き続けたモランディの絵画を愛する者として、私は二つの選択肢に迫られました。生涯同じ主題を描き続けるか、あるいは人生がもたらすすべてを描くかです。後者を選べば、私生活とアートが混同してしまうことは分かっていました。

私には特定のアイデアも、主題もありません。ただ、日常生活の歴史と神話を写すことが、私が達成しようと努めている目標です。

私の作品は、旅や個人的な経験を通じて出会った文化の証なのです。

ーあなたの創作プロセスについて教えてください。特に重視している点や、特別に注意を払っている面はありますか?

ヴェルシェール:すべての絵画は私たちの夢から生まれると信じています。眠りの中の無意識が、体は静止したまま、私たちを夢のようなユートピアに近い旅に連れて行くのです。キャンバスはユニークです。それぞれのトワルは、私たちが築かなければならない透明な壁のレンガのようなものです。

私はキャンバスの中における地理や空間を信じています。私の制作に、いわゆる「プロセス」はありません。ですから、空間の中へ飛び込み、頭の中で「コンメディア・デッラルテ」を構成する度に、私はリスクを冒しています。それはまるでハードドライブのようなもので、私が20歳の頃から作り続けた、思考のアルファベット順索引のようなものです。私がしていることは、その実質に近いと願う物語を再現するに過ぎません。

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

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ー以前の作品と比較して、実験した顕著な変化や新しい技術/アプローチはありますか?

ヴェルシェール:はい、ホワイトストーンギャラリーでの展覧会とマネージャーのリチャードとの対話のおかげで、私は妖怪に基づくアプローチを展開させることができました。ヨーロッパや世界で知られる特定の文化と、結局はそれほどかけ離れていない精神性にアプローチしようと試みています。私は日本の精神に親近感を感じます。それは時にヒエロニムス・ボスの歌を歌い、私がいつも愛してきたモンスターやクリーチャーたちとの踊りへと私を導きます。

今回の展覧会のため、特別に2つの作品を制作しました。背景は赤でも白でもない、パステルカラーです。ドローイングの輪郭ももはや黒ではなく、キャンバスの背景に合わせています。これは新しい旅であり、異なるやり方を実践することで、私を大いに豊かにしてくれました。それは作品の変化ではなく、異なる知覚を持とうとしているだけです。

ー今回の展覧会のコンセプトにはどのような意味が込められていますか?

ヴェルシェール:実のところ、私の作品はすべてテーマではなく、私の興味の一時性に焦点を当てています。数年前から、私は日本文化、特に妖怪に興味を持っており、アジアと日本の文化をヨーロッパの文化と統合しようとしてきました。そのため、両者の間に類似点を見つけることができます。私は仮面、動物、生命・死・祝祭の概念を愛しています。

私がよく言うのですが、アートは主張ではなく提案です。私は、誰もが自分自身の物語を想像できるようにイメージを提案します。観る人が絵の中に入り、自分自身になるのです。主人公はしばしば私の自画像ですが、これは絵の中で私が頼りにできる唯一の人物だからです。

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

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ー使用する美術材料に変化はありましたか?(以前のインタビューでは、韓国の伝統的な塗料「SHINHAN」を使用していると言及されていました)

ヴェルシェール:長年にわたり、韓国への数多くの旅を通じて、私は自分の作品に最も適した画材を探してきました。そして、私のスタイルによく合い、使っていて非常に心地よい水彩絵の具と伝統的な韓国紙を発見しました。インクと水性塗料は他では見られない自由な動きと流動性を与えてくれます。私は水彩画を多用していましたが、その後、アクリル絵の具のように機能し、無限に描き重ねることができる伝統的な塗料に移行しました。

SHINHAN製品のコントラストには本当に驚かされました。私の作品では、宗教画に使われるような、強い光と関連する色が必要でした。それは出現のように、素描と絵画を超えた信念の感覚のようでなければなりません。

ー過去のインタビューでは、「日常生活はおとぎ話である」と表現されました。現在の日常生活において、最近、あなたにインスピレーションを与えた出来事や場面はありますか?

ヴェルシェール:私は過度な露出を通して、つまり、行動の力を増幅させて神話的なものにすることで、平凡で日常的なものを伝えようとしています。そして、イギリスのウィンブルドンにいた時、私はパーティーから遅く帰り、雪の中で転びました。目が覚めると、そこにはキツネの群れがいました。私は母親と子供たちだったと思います。そして母親が私を起こしてくれたのです。私が立ち上がると、彼らは突然逃げ去りました。それ以来、私のトーテムアニマル(守護動物)はキツネだと思っています。奇妙なことに、私が日本文化に興味を持ったとき、狐の存在をしりました。それ以来、このキャラクターのイメージと思いが永遠に私を悩ませています。

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

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ー日本での展覧会開催について、日本の観客や文化に対して特別な思いや期待はありますか?また、日本の美術シーンや美的感覚の影響を受けた面はありますか?

ヴェルシェール:私は、常にヨーロッパの外で表現しようとする一面がありました。1980年代にポップカルチャー、アニメ、マンガを通して日本はフランスに入ってきました。そして学生時代に、印象派やナビ派の画家たちは、日本美術に強い関心を持っていたことを学びました。多くのディーラーが特に北斎の版画を持ち帰っていました。

学生時代から、そして頻繁に日本で展示を行っていたジャン=マルク・ビュスタマンテのおかげで、私は多くのアーティストに非常に興味を持っています。特に1990年代、イラストレーターのメビウスを通じて、芸術家でありアニメーターの宮崎駿と出会いました。彼は私の人生におけるポップ・アイコンです。彼のおかげで、伝統と現代性を組み合わせ、真に現代的な旅を創造できることを理解しました。

もちろん、私は北斎、長谷川等伯、水瀬巴水の影響も受けています。また、村上隆にも。彼の影響は私にとってアンディ・ウォーホルと同じくらい重要でした。

要するに、彼らの日本的なスタイルは常に、アニミズムに限りなく近い詩情と、自然に対する概念をもたらしてくれました。

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

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ーこの展覧会の後、次のステップとして考えているプロジェクトやテーマはありますか?将来の創造的な仕事でより深く探求したい分野があれば、共有してください。

ヴェルシェール:私にはまだ、描くべきキャンバスが沢山あり、心惹かれる新しい経験も沢山あります。病院や入院中の子供たちに関連するプロジェクトをいくつか抱えています。私の経験を分かち合うことは非常に重要です。

博物館やプライベートな空間に壁画を描き続けたいです。アーティストの人生における特定の瞬間を記録するものとして重要だからです。私には3つの実現したいプロジェクトがあります。「神曲」、「ドン・キホーテ」、そしてモーツァルトの「レクイエム」についての3つの大きなキャンバスです。普遍的で時代を超越した作品たちだと考えています。私はまだ年を取っていませんが、知的かつ普遍的なつながりに結びついた作品を残したいと思っています。それは大衆的で誰もが理解できるものです。

ホワイトストーンギャラリー銀座新館

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ヴェルシェールのキャンバスにはまだ描かれるべき物語が数多く残されている。今回のインタビューは、彼の表現の現在地を確かめるための小さな指標であり、これからの制作がどのように新たな神話を生むかを見守っていきたい。

Liaisons Imaginaires -想像の連結: 矢柳剛 & ファビアン・ヴェルシェール

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