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江上越が誘う普遍の哲学|江上越 × JY『諸子百家』

2023.03.14
INTERVIEW

ホワイトストーンギャラリー香港 / H Queen’sでは、江上越とJYのコラボレーション展『諸子百家』を開催する。江上越は異文化体験から得たコミュニケーションの可能性を、言語の起源を含むさまざまな学問領域から探求・再考する、現代アーティストだ。

今展では、大胆で鷹揚な筆致と、鮮やかで力強い色彩を特徴とする江上の肖像画シリーズから、古代中国の哲学者たちの思想があぶり出される。アーティストのJYを展覧会に招き、古典的な名言の書画作品も併せて展示。絵画と書が共振共鳴する展覧会について、作家本人にインタビューを行った。

江上越

パンデミックがもたらした書物への旅

展示風景

ー最初に今展のテーマを教えてください。

江上:展覧会タイトルそのままに、「諸子百家」をテーマにした展示になっています。国際的パンデミックのなかで読書をする機会が増え、2021年のGINZA ATRIUM(GINZA SIX 蔦屋書店)での展覧会『星の時間』では、近代文豪をテーマにしたシリーズを展示しました。その中で渋沢栄一の『論語と算盤』に出会ったのです。タイトルにある「論語」は孔子の言行を記録した儒教の代表的な経典です。この本がきっかけで中国の春秋戦国時代に惹かれて、リサーチを始めました。

紀元前5世紀の乱世、春秋戦国時代に生まれた諸子百家たちの哲学思想は、時代の転換期にいる今の私たちにも何かメッセージを発しているのではないか。彼らの哲学を通して現代社会を見つめなおしたい。そう思っていると、自然と描き始めていました。

Whitestone Gallery Singaporeでの個展風景(2023)。同展では鴨長明による日本古典文学「方丈記」の冒頭『行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。 よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。』がタイトル名に冠されている。

ー今展では古代中国の思想家の肖像画が展示されます。制作は具体的にどのように進みましたか?

展示風景より、江上越 × JY《老子ー02》2023, キャンバス・油彩・墨, 107.5 x 153 cm

江上:概念化された肖像にとどまらず、自分の感覚で諸子百家の思想結晶を可視化するとともに、歴史的文脈を再現し、古代思想家の象徴的なイメージを自分の絵筆で再構築したい、と考えました。その中で《老子》と題した作品は、私が描いた肖像とJYの書を組み合わせた作品であり、今展を代表する作品です。

老子の思想は中国の哲学発展に深い影響を与え、その思想の核心は素朴的弁証法です。政治的な面では「無為而治」「不言之教」を掲げ、また修行の面では「虚心実腹」を重んじ、人と争わない、という思想は道家の核心でもあります。

油絵によるポートレートでは、寒暖交錯する色調が曲線の間を通り抜け、曲線が積み上げられた峰のように、時間の経過を象徴する平行線の背景の上にそびえ立つ。絵画言語と老子の思想を混然一体にし、ひと筆ひと筆、老子を掘り起こすように制作をしました。

JY

《老子》作品を構成する書画に関しては、老子のイメージでJY氏に制作をお願いしました。そこには金文篆字で「大方无隅、大器免成、大音希声、大象無形」と記されています。この文字の出典は馬王堆から出土した『道徳経』です。これは老子が提案した中国古代文学理論の美学観念であり、自然であること、人為的美ではないことを尊重することを意図しています。JYの奔放な筆致と自然に生まれた章法は、肖像画と対になることで新しい思想空間を形成し、新たな芸術形式の始まりを告げる重要な作品になると信じています。

江上越と“書”という存在

作品の前で語り合う、江上越とJY

ー絵画と書画という新しい芸術形式が体験できる今展ですが、江上氏自身にとって書とはどんな存在でしょうか?

江上:興味深い質問ですね。2021年に文化庁の新進芸術家派遣でニューヨークに派遣された際に、ボストン美術館のキュレーターに招かれてアーティストトークをしました。アメリカの美術館のキュレーターやパトロンが参加していたのですが、その時にあるキュレーターの方に「あなたの作品はアニメーションや浮世絵でもない、しかし東洋的。それはあなたの作品から「書」を感じるから」という言葉を貰いました。

そこで気付かされたのは、幼いころから習っていた書の記憶です。特に意識したことはなかったのですが、書のリズム感や、身体性、そして南北朝時代に謝赫によって書かれた最古の画品書、六法にある「気韻生動」などが、自然と私の作品に関連しているのかもしれません。肖像と思想、イメージと文字、東洋の書と西洋の油絵との関係性はどこにあるのか、これから更に探求していきたいです。

作家を駆り立てる、純粋な創作欲求

展示風景

ー江上氏は美術館での展覧会開催やアートフェア参加だけでなく、アートイベントに参加するなど、非常に積極的に活動されています。限られた時間の中で制作をどのように進めていますか?

江上:描きたくてしょうがない、そんな心から湧き上がる衝動と欲望のなかで、自然と筆が動いてしまいます。肌で感じる呼吸感、バイブレーション、そこからまだ何か見えてくるのではないかという探求心で、ついつい描きつづけてしまいますね。

制作風景

ー最後に、今後の展望を教えてください。

江上:今展の諸子百家シリーズでは、自らの作品を発展させて新しい次元を切り開き、「書」と「ことば」との対話をもっと掘り下げていきたいと思っています。

少し前まで群馬県立近代美術館にて展示をしていましたが、今後も美術館での展示が控えています。春からは北京の清華大学にて教鞭を取ることになり、北京への渡航も決まっています。また、海外のインスティテューションプログラムもいくつか進行中です。やり遂げたいことはたくさんありますが、今後も日本の作家として、そしてアジアの作家として、国際的に活躍したいです。

Whitestone Gallery Singaporeでの個展風景(2023)

昨年は美術館での展示や教育プログラムを行い、2023年はシンガポールでの大規模個展から始まり、春には教鞭を取るなど、今展も併せて非常に精力的な活動を続ける江上越。制作に関するインタビューでは、「トークやイベントなどのお誘いは断ることも多いのですが、いま思うとそれにしても忙しいですね」と笑いながら答えた。国際的な知名度の上昇に伴って忙しさに拍車がかかっているものの、江上の制作への原動力はさらに増幅している。

江上越とJYのコラボレーション展『諸子百家』は、ホワイトストーンギャラリー香港 / H Queen’sで2023年4月6日まで開催。サイトでは江上とJYの作品もご覧いただけます。

展示風景

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