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李朝白磁の魅力に重なる─ミズブルー

評価され続けているアジアのアート
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Installation image, 2017, Taipei

国際的に評価されているアーティストやアジアのアートマーケットに関しての書籍『今、評価され続けているアジアのアート』をデジタルアーカイブとしてお届けするシリーズ企画。第7回目は、Tetsuo Mizùをご紹介する。

李朝白磁の魅力に重なる─ミズブルー

佐藤春喜
美術愛好家

李朝白磁には言語化出来ない魔力があり危うい。その白は多様で限りなく深く、根底には気品を漂わせる。一方ミズのブルーにも様々なブルーがある。彼は殆ど黒にしか見えないものも ブルーと言う。時に田沢湖の水の色など具体的なモノを指すかと思えば、JAPANの青などをはじめ感情に直接結びつくこともある。その中で、観る側は自由にその青の豊かさを堪能する。李朝白磁とミズブルー、時代も地域も異なる二つの色合いだが、それぞれの放つ魅力は尽きず、また一部は重なる。それらの背後には哀しみが横たわっている。

青はフラッグシリーズ1の根幹を成す重要な色だ。そのフラッグシリーズの絵画について、これからもさらなる可能性を秘めていると私は信じる。文字をアートに置き換えることはそれ自体ユニークな作業ではあるが、そのことは絵画の質には関係ない。しかしミズの職人的わざと優れた感性を併せ持った手により、そこから独自のアートが生まれる。作品は、薄塗でありながら確固たる豊かなマチエールを湛え、品格を醸し出す。さらに膨大な量のフラッグを制作し続ける中で、今後ますますグレードの高いレベルに達しようとしている。

その一つの要因として、文字をそのままフラッグで置き換えるのではなく、文字にあたるフラッグのディテール同士を、各々用いて組み合わせるという構成的な要素がある。

そうなると,交換表のようなものをもっても,何の字か分らないところまで部分化される。もっともこれは,フラッグを始めてかなり早い時期にもその作例はみられている。ただ違うのは、それらは画家としての直感に基づいて制作されているのに対し、近年、作家はこれを幾分かは意識して作画するようになっていることだ。そのことにより、より自由な,あるいはより困難な道を歩むことになるが、それ故、さらなる傑作が生まれる必然性も持ち合わせている。

また、フラッグにとどまらず、きまりに縛られない自由な作画による銘品を生み出してくれることも期待したい。ときに、70~80年代の斬新な半具象のタブローをメインに継続して制作していれば、今どのような絵となっているのか、想いを馳せるのは私一人だけではないだろう。今、70代のミズによって、新たな本格的な半具象が描かれることも望みたいが、無理な注文であろうか。

ミズ作品の観照に際しては、見る側の心の在り様で時に見え方が違ってくる。恐らくそれは絵が色、線、面などシンプルな構成で成り立っていることと無関係ではあるまい。作品を鑑賞するにあたっては、己の状態を極力フラットあるいは空にすることが望ましいが、これは中々難しいことである。こちらの心身の状況によって、同じ対象でもその感じ方は微妙にあるいは時に全く異なった印象として映る。そのことは、こちらの問いかけ具合によって、応え方が違ってくるというようなことにもなる訳で、ある種のアートでは往々にして経験することである。そのような作品には、一見とっつきにくいが奥があり、長く飽きずに観ることのできるものが多い。

優れた作家(制作者)は、おしなべて優れた観照者(見る人)でもある。ということは、自らの作品の真の第一の理解者は、作者自身と言ってもよいであろう。ミズもまさにそのような作家であり、時に制作段階の早い時期に、これは素晴らしい作品になる!と自らが感じ取り、事実その通りになる。完成作を見るまでもなく、筆を入れたあたりで全体像を読み説くというのは驚くべきことだが、今後ますます、そのような作品が増えることを、ファンの一人として望んでいる。

バルセロナ・チェアで知られる建築家、ミース・ファン・デル・ローエには、二つの著名なことばがある。

Less is more.「より少ないものこそ沢山ある」。つまり、研ぎ澄まされた中に、真の豊かさがある、というような意味になろうか。そしてGod is in the details.「神は細部に宿る」。

これらは、アートに向かい合う際の、自分にとってのキータームでもある。

作家・ミズテツオ

佐藤春喜(さとう はるき)

1951年東京生まれ。現在、都内にて開業中(内科、心療内科)。二〇代後半から現代美術に興味を持ちはじめ、1980年代は主に貸画廊を見てまわる。1991年には、アートに対する私観及びその時点でのマイ・コレクションを整理編集した〈somthinng else 1〉を出版。2009年に「ギャラリー古今」を開廊。現代美術と古美術を主に仏教美術や古陶などを同一空間に布置させることをメイン・コンセプトにしている。企画/常設の他、これまでに菅木志雄、倉重光則、鷲見和紀郎、ミズテツオらの個展を開催(目下企画展以外は休廊中)。今後、<something else>の続編を出版予定。

書籍情報
書籍名:今、評価され続けているアジアのアート
発行:軽井沢ニューアートミュージアム
発売 : ‎ 実業之日本社
発売日 ‏ : ‎ 2019年8月6日

※本記事に掲載されている情報は発行当時のものです。現在の状況とは異なる場合があります。


1フラッグシリーズ:海上において船舶間での通信に利用される世界共通の旗である「国際信号旗」を組み合わせて、言葉を絵に置き換えるもの。1987年より作家はこのシステムに従い制作を続けており、これまでの制作数は膨大な数にのぼっている。

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