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風景の上にあらわれる精神のかたち:山下千里インタビュー

2025.11.25
INTERVIEW

ホワイトストーンギャラリー銀座新館では、新進気鋭のアーティストたちによる『Dimensions IV - art is』を開催する。

今回、参加アーティストたち3名の内なる世界に迫るべく、インタビューを実施。アートに対する考え方、それを具現化させるためのメディウムへの向き合い方、創作における原点などを尋ねた。三者三様のまなざしが交差する言葉から、その奥行きを感じてほしい。

ー今回の展示の制作テーマや、メインビジュアルの作品について教えてください

山下:主に自身の精神やノスタルジーをテーマに制作しました。メインビジュアルのアクリル画「addiction」は、これまで手がけていた日本画とは異なる、新しい絵柄の作品です。この作品を経て、現在の自分が抱く価値観や精神、そして病や不安を伴っても、なお生き続けるための心持ちについて思いを馳せたアクリル画のを多く制作しました。

また、「addiction」は自分の父のことを思って制作しました。そこから自身の原風景を見つめ直し、父の経営していたライブバー「大久保水族館」の室内風景を描いた日本画も描きました。

ーご自身のアーティストとしての強みは何ですか?

山下:描写が好きなこと、また絵に向かう根気があることです。絵を描いていると、ひたすら同じ仕事を繰り返す工程も生まれます。細かい描写を詰めることが好きなので、その作業的工程を比較的楽しめる自身の性格が、今の絵柄に向き合うことに幸いしていると感じます。

山下千里 “spirits I” 2025、61.7 × 53.0cm、カンヴァス・アクリル

山下千里 “spirits I” 2025、61.7 × 53.0cm、カンヴァス・アクリル

ー創作における自分の原点、きっかけとなった出来事はありますか?

山下:幼少期よりずっと絵を描くことが好きでした。表現をしたいと強く思ったきっかけは、大学生の時に新江ノ島水族館でクラゲと深海生物の展示を見たことです。クラゲの美しさに魅了され、この生物の美しさを自身の手で再現したいと思い、クラゲをモチーフにしたアクセサリー制作や日本画制作を始めました。また、深海生物の生態や姿の特質性に強く惹かれ、またシンパシーを覚え、自身を投影した人物と深海生物を組み合わせた日本画作品を描き始めました。

創作における根底の原風景には父の影響があります。幼少期の旅行の記憶からは海や海の生物を、地下のアンダーグラウンドなライブバーの記憶からは暗闇に光が灯るような表現を、それぞれ作品に多く取り入れています。また、家族としてその父の依存症に向き合う日々を経て、現在のアクリル画作品の作風に辿りつきました。

ー今の表現方法に辿りついた経緯、メディウムへのこだわりを教えてください

山下:日頃より日本画作品を制作していましたが、自分の感情や精神の動きについて、より剥き身の感情を描くために、日本画の画材特性を省いた表現を行いたいと考えました。そこで今回は、アクリル絵の具を用いて、写実と抽象を組み合わせる表現を選びました。

アクリル画は日本画作品と比較して絵肌がツルツルしており色鮮やかで、同時に日本画の和紙や岩絵具のような柔らかい質感のない、率直で生々しい雰囲気が生まれると感じています。自分の精神を美化なく表現するためには、日本画材よりもアクリルがより適しています。また、アクリル画で絵を描く際はグラデーションを作ることが多いため、リターディングメディウムを愛用しています。

山下千里 “spirits II” 2025、61.7 × 53.0cm、カンヴァス・アクリル

山下千里 “spirits II” 2025、61.7 × 53.0cm、カンヴァス・アクリル

ーこれまでの作風とはかなりの変化があります。写真を元にしている部分はどういった意図がありますか?

山下:「addiction」を描こうとした当初、依存症の怖さや不安を表現するため、ムンクの作風を参照し、背景も含めて歪ませたものを考えていました。しかし、それだと表現としては恐ろしさ一辺倒になり、鑑賞者の許容の幅を狭めかねません。そこで、直近の旅行の写真から、目に優しい風景を選び、その穏やかさと中心の存在の異様さとのギャップで恐ろしさを表現することにしました。

「addiction」では直感的にいいな、と思った写真を選んでいます。その後もこの絵柄では夕暮れの風景を背景に選ぶことが多いです。鑑賞者の方から「夕暮れの空の色の変化を含めて、中央の存在が変わっていくことを、風景が包み込むように受け入れている感じがする」と感想を頂いたことがあります。その優しい解釈がとても素敵だったため、作品に取り入れています。

ー影響を受けた人物や作品はありますか?

山下:絵画作品を描き始めた初期には、プロフィギュアスケーターの羽生結弦選手に強く影響を受けました。人生をかけて覚悟を持って表現に向き合う姿に感銘を受けたんです。また、アングラ芸術が好きだった時期があり、寺山修司の映画や天井桟敷の演劇から影響を受けました。

制作面では、美人画家の池永康晟先生のアシスタントをしていた時期があり、髪の描き方や線の引き方など間近で拝見したことで大きな影響を受けています。

また、単体の作品では、アニメ映画の「ねこぢる草」、フリーゲームの「ゆめにっき」など、精神性が強く解釈の余地を多く含む作品に影響を受けました。メジャーよりもマイナーの作品に愛着を持つことが多かったです。

ー今後の展望や夢をお聞かせください

山下:自身の健康を鑑みつつなるべく長く制作を続けることが目標です。また、そのために日本のみならず、世界においても広く多くの方に作品を見ていただき対話を行いたいです。一番には自分の作品が自分自身の人生の手助けになるものとなれば嬉しいと思っていますが、その過程で、見てくださる方の人生に影響を及ぼす一要素となればさらに嬉しいです。

山下千里 “spirits Ⅲ” 2025、61.7 × 53.0cm、カンヴァス・アクリル

山下千里 “spirits Ⅲ” 2025、61.7 × 53.0cm、カンヴァス・アクリル

精神の深部を見つめるため、日本画からアクリルによる新たな表現へと踏み出した山下。その作品には、原風景や家族の記憶、そして自身の精神世界が静かに折り重なり、痛みと再生の気配が宿っている。

Dimensions IV - art is

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