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台湾の彫刻家、ファン・ピン・トンの彫る丸みとふくよかな癒し

2026.01.08
INTERVIEW

台湾で今最も注目される彫刻家、ファン・ピン・トンをご存知だろうか。赤ちゃんの足と果物や雲などを組み合わせた独特な作品で知られ、「丸みとふくよかさ」という哲学のもと、癒しの彫刻を生み出すアーティストだ。

そんな彼女が、1月9日から神木佐知子との2人展「芽吹きの肖像 - Portraits in Bloom」を開催する。初披露となる新作「ドラゴンフルーツ」シリーズも展示される貴重な機会だ。台湾でのファン・ピン・トンの人気の秘密とは? ホワイトストーンギャラリー台北のスペースマネージャー、オーマイン・チャンにその魅力を語ってもらった。

ーファン・ピン・トン氏の作品の魅力とは何だと思いますか?

チャン:彼女の作品の核心的な魅力は「丸みとふくよかさ」という哲学にあります。この「癒し」の形は非常に豊かで心地良く、彼女の作品は現代アーティストの中でも際立って存在感があります。

最も特徴的な点の一つは、柔らかく繊細な、赤ん坊の足の表現です。彼女の彫刻は顔がないにもかかわらず、鑑賞者はその感情を強く感じることができます。ぽっちゃりした膝のくぼみやバラ色の色合い、あるいは少し上向きの親指が表現する照れくさそうな喜びなどです。顔の特徴がないのは意図的なものであり、鑑賞者に、無限に広がる想像の余地を作り出しています。

さらに、彼女の洗練された色使いと細部に隠されたこだわりにも驚かされます。例えば、異なる角度からの光と影の相互作用、微妙な色の変化、そして足の指の小さなマニキュアの跡まで、素晴らしい職人技が光っています。

ファン・ピン・トン《あらわれる無限の希望》 2025、30.0 × 29.0 × 46.0cm、木・アクリル

ファン・ピン・トン《あらわれる無限の希望》 2025、30.0 × 29.0 × 46.0cm、木・アクリル

ー台湾のファンが特に共感するファン・ピン・トンの人柄や創作へのアプローチにはどのような側面がありますか?

チャン:長い間ピン・トンのそばにいる私が、最も魅力的だと感じるのは、彼女の誠実さ、つまり言葉と行動の一貫性です。彼女の作品の視覚言語は、彼女の落ち着いた振る舞いと、アーティストトークでの突然の楽しいユーモアを見事に反映しています。例えば、マリリン・モンローへのオマージュ作品である「あらわれる無限の希望」が良い例です。このような稀有な人格は、彼女が熱狂的なコアなファン層を持つ重要な要因です。

また、ファンも知らない意外な一面があります。彼女が全てのエネルギーを光の陰影、色合いの微妙さ、リアリスティックな技術の研鑽、撮影や展示構成に至るまで、平均的なアーティストをはるかに超える几帳面さとこだわりを示す一方で、日常生活では驚くほどおおらかな「生活音痴」である点です(これは彼女の夫の冗談によります)。

ファン・ピン・トン《朝のゆるやかな時間》 2025、38.0 × 31.5 × 27.0cm、木・アクリル

ファン・ピン・トン《朝のゆるやかな時間》 2025、38.0 × 31.5 × 27.0cm、木・アクリル

ー台湾の一般的なオーディエンスからコレクターや批評家まで、ファン・ピン・トンの作品への反応はいかがですか?

チャン:自信を持って言えることは、批評家や業界の専門家が一致して「ピン・トンは台湾の中堅彫刻家として最も代表的な人物である」と認めていることです。コロナ禍以降、彼女は世界的に広まった「癒し系(ヒーリング)スタイル」のパイオニアであり、台湾のアートシーンを席巻しました。彼女の作品は台湾での木彫ブームの台頭を表すだけでなく、市場の「心の安らぎや癒しを求める深い反応を示しています。

2022年のホワイトストーンギャラリーでの初出展時前に、コレクターから「彼女の小規模作品(20cm以下)を入手するには2年以上待たなければならない」と噂されました。ホワイトストーンの広大な空間においても、彼女は卓越した技術をもって大作を披露しました。これらの大きな作品は彼女により多くの表現の余地を提供し、そのパワー、色彩のコーディネート、細部へのこだわりは以前の作品をも凌駕しています。メインビジュアルとなった大作は、2回連続で即座に成約に至りました。

特筆すべきは、既存のコレクターだけでなく、これまでアート購入の経験がなかった新規層を強く惹きつけている点です。「初めてのコレクションをファン・ピン・トンの作品にしたい」と思わせる親しみやすさは、彼女が持つ類稀な「ソフトパワー」だと言えます。

ファン・ピン・トン《豊穣・祝祭》 2025、36.0 × 21.6 × 28.0cm、木・アクリル

ファン・ピン・トン《豊穣・祝祭》 2025、36.0 × 21.6 × 28.0cm、木・アクリル

ー日本の観客に向けて、ファンピントンの作品の見所を教えてください。

チャン:東京での初の展示会で、ファン・ピン・トンは「ドラゴンフルーツ」という新しいモチーフを導入しました。彼女の特徴である「丸みとふくよかさ」の美学を継承しながら、この独特な果物の鮮やかな色彩を用いて台湾の情熱を表現しています。これは彼女の素晴らしい彫刻技術だけでなく、鮮やかでありながらエレガントである色使いの妙を堪能していただきたいです。

また、彼女の「写実技法の極地」も魅力的といえましょう。現代の市場において写実主義は必ずしも主流ではありませんが、コレクターはやはり、独創的なアイディアの裏にある確かな技術を以前として愛するものです。彼女はその両者を完璧に融合させる稀有な能力を持っています。

彼女はかつて、著名な写実彫刻家であるヤン・ベイチェン(楊北辰)のスタジオで数年間アシスタントを務めていました。その時の経験が、制作に深く影響しています。彼女の独自の視点により、ふっくらとしたフォルムの中で、「写実」と「具象」の間の完璧なちょうどいいバランスを保っているのです。例えば、先に述べた「あらわれる無限の希望」では、ドラゴンフルーツの種が少女の下着の模様のように見えます。遠くからは単なる黒い点に見えますが、近くで見ると少し盛り上がった、ぷっくりとした果実になります。この自然な創意工夫が彼女の作品に命を吹き込んでいるのです。

ファン・ピン・トン《あらわれる無限の希望》 2025、30.0 × 29.0 × 46.0cm、木・アクリル

ファン・ピン・トン《あらわれる無限の希望》 2025、30.0 × 29.0 × 46.0cm、木・アクリル

ファン・ピン・トンの作品が持つ癒しの力は、言葉では表現しきれない。丸みを帯びた小さな足が語りかける無言のメッセージ、ドラゴンフルーツの鮮やかな色彩に込められた台湾の情熱、そして見る者それぞれの心に宿る想像の余地、これらすべてを実際に体感できるのが、今回の展示の醍醐味だろう。

台湾を代表する彫刻家の、初の日本での本格的な展覧会。新作「ドラゴンフルーツ」シリーズとともに、彼女が紡ぎ出す「芽吹き」の物語を、ぜひその目で確かめてほしい。

芽吹きの肖像 - Portraits in Bloom:神木佐知子、ファン・ピン・トン

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