「私は絵画を純粋な感情領域に戻したいのだ。ゆえに主題は設けない。私が望むのは観る人に絵画をそのまま差し出し、自由に会話してほしいのだ」——猪熊克芳

ホワイトストーン・ギャラリー台北は猪熊克芳による個展『セルリアン・ブルー』を開催いたします。あらゆる色彩のなかで、碧ほど浸透力があり、かつ空気に馴染む色はない。観る者が感じるのは青い海と空。猪熊よればこのふたつの要素によって碧は人々の記憶に触れる。今展はホワイトストーンにおける8回目の個展となり、台湾における初の個展となります。『セルリアン・ブルー』では作家が1997年~2020年の間に制作された、カンヴァスと紙を含めた30余品を展覧いたします。

オランダの画家・レンブラントの描く自画像に大きな影響を受けつつ、猪熊は光と影の構築に傾注する。初期の作品、『19歳の自画像』(1970)や『対話』(1980)はシュールレアリズムの雰囲気をまとう。単純化された背景のなかにたつ彫像のような人物上は夢見がちな表情とともに浮遊する。1990年作家は画家・鎌田正蔵と邂逅。鎌田の影響で正確に描くという義務感から解放され、瞑想的な雰囲気をもつ色彩感豊かな抽象画へと転向する。
猪熊は、デッサンの技巧においてもダイナミックな変革を遂げた。『IN BLUE Nov ‘95』において、ドリッピングや矩形構造の開発を始める。碧がもつ深い潜在性を引き出すために、色彩の層の組成を操り、のちにヤスリにかけていくつかを消失させる。「消去」は猪熊の絵画において重要かつ繰り返されるプロセスである。

猪熊は無作為で凹凸のあるテクスチュアを創り出すために、コーヒーの搾りかすを混ぜ込む。光線の加減により、さらに複雑な色調の表層が立ち現れる。パステル画制作ではパステルを漆喰のなかで挽き、手で塗りつけヤスリで削り取り、粗い質感を実現する。大気や水、大地にまつわる多彩な色を生み出す猪熊の絵肌には、静謐さと精神性が宿っている。

猪熊克芳は1951年福島県生まれ、1981年横浜美術学校卒業。福島県美術協会展特選(1980)、青木繁大賞(1996)、福島県総合美術展準大賞及び斎藤清賞(1998)など数々の賞を受賞。これまでに香港、台北、東京などで展示を行う。福島県立医科大学、ホテル・ハマツ(郡山市)などに作品が所蔵されているほか、青木繁大賞では審査員を務める。