置換と並行伝達は、自己実現の本質であると同時に、共存の尊重でもある。距離感や不確かさに目を向けるとき、コミュニケーションの本質がゆっくりとたち現れてくるのかもしれない。まさにこの瞬間、コミュニケーションのグレーゾーンの中に、ぼんやりと虹を見たような気がする

― 江上越

ホワイトストーンギャラリー台北では、日本人アーティスト・江上越の新作絵画展『Rainbow』を開催いたします。今展は台湾での初の個展となり、千足伸行、イアン・ロバートソン、陳光義によるエッセイを掲載したカタログも併せて刊行されます。

江上は、具象と錯視絵画の伝統を融合させ、全く新しい美的体験をもたらす視覚的にも魅惑的な作品で広く知られている。若き日本人アーティストとして、北京の中央美術学院で油絵を学び、独自の具象画のスタイルを確立し始める。それは彼女の師匠・劉暁東の社会主義的リアリズムの美学とも一線を画すものであった。

江上の絵画は、半透明の筆跡で簡略化された一連のポートレイトも含め、豊かな色彩とシンプルな構図で描かれている。それらはしばし、グリッジ(コンピュータ上のデータ干渉)と繋がっているかのような、より広汎な物語性(ナラティヴ)を髣髴とさせるが、もっと抽象的でバラエティに富み、かつ重複しあう形態を含んでいることが多い。江上の芸術は高度な技術を駆使して繊細に描かれているものの、直観とプロセスを強調した深く個人的な作品となっている。「虹という言葉は、心の現況と強く共鳴している。だからこそ虹は私の象徴的なコミュニケーション言語となり、作品上に徐々に現れ始めたのです」と、作家は述べる。作品タイトルも同様、鑑賞者との一種の遊戯であり、型破りな黒と茶がそこに加わることで、鑑賞者の体験により複雑で魅惑的な層(レイヤー)がもたらされることになる。

本展『Rainbow』では、「レインボー」と「アーティスト」の2つのシリーズを含む、新作37点を展覧。具象化・線描による比喩・視覚芸術の曖昧性を開拓し続ける一方で、新たな方向性も示唆する。とりわけ、通常は直接的な空間や構成の中で被写体や構造を描くが、いくつかの大作、例えば「Rainbow-2020-078」(2020年)では、細長い子供の頭部が太く直線的なブラシストロークで描かれ、具象と抽象の境界に挑む。これらの作品は江上が作品に用いる色彩域の広さを物語る。色彩列が氾濫する作品群と対を成すかのように、いくつかの作品では色彩は極度に絞られる。デフォルメされた姿態で右を向いているように見える人物を捉えた「Artist-K」(2020)は、ほぼ全体がボルドー色で展開し、補色的にグリーンが用いられているに過ぎない。

江上越は1994年千葉県生まれ。東京を拠点に活動し、現在は北京の中央美術学院の博士課程に在籍。『君の名は』(2019)が、ホワイトストーンギャラリー東京での初個展となる。これまでに文化庁優秀芸術家賞(2020)、第16回千葉市芸術文化新人賞(2018)など数々の賞を受賞。また、現代美術財団賞(2020)、ソブリン・アジア美術賞(2019)のファイナリストにも選出される。ロンドン、香港、北京、台北、東京など様々な都市で作品が展示されている。江上の絵画を著名なコレクションに収蔵している機関に、CAFA Art Museum(北京)、Garage Museum of Contemporary Art(モスクワ)、Yuan Dian Art Museum(北京)、Tree Art Museum(北京)、E-LAND Foundation(ソウル)などが挙げられる。